2018-11-01

政府が格差を是正できない理由

「政府は富の格差拡大を是正しなければならない」という意見を毎日のように目にします。けれども、いくつか疑問があります。

まず、そもそも格差は本当に拡大しているのかどうか。次に、かりに本当だとして、是正が必要なのかどうか。特に見落とされやすいのは3点めの疑問です。それは、政府に富の格差拡大を是正するインセンティブ(誘因)があるかどうかです。

考えてもみましょう。政府を動かす政治家・高級官僚の多くは、富のピラミッドの上位に入る金持ちです。だとすれば、わざわざ自分の富を減らすような格差是正策を実行したがるでしょうか。むしろ逆ではないでしょうか。

日経電子版の記事によれば、安倍晋三首相が表明した3~5歳の保育所の無償化に対し、与党内から「所得再分配に逆行する」との批判があるそうです。高所得者層への恩恵が大きいからです。

無償化が全額補填を意味するなら、高額所得世帯は年間100万円以上もの負担減になります。金額にして、年収約1130万円以上の世帯は年収約260万円未満の世帯の17倍もの恩恵を受けるそうです。一方、生活保護世帯では恩恵はゼロです。

格差拡大を批判する人たちは、自己の利益を追求する市場経済では格差は是正されないので、政府に任せるべきだといいます。しかし政府を動かす政治家や官僚は、聖人君子でも天使でもありません。やはり自己の利益を追求する生身の人間です。

著名な知識人でも、この当然の事実を忘れがちです。英文記事にあるように、米哲学者のジョン・ロールズは、自由放任的な資本主義は公正な機会の平等などを受け入れないとして、政府の介入を求めます。ところがその一方で、金持ちは教育で培った知性や財産を利用して政治権力を手に入れ、法体系を作って経済を支配するとも述べます。

おかしな意見です。金持ちが政府を支配していると認めながら、政府は金持ちに不利な政策を実行せよと求めるのですから。(2017/11/01

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