2018-11-03

王道の企業、邪道の企業

企業には2種類あります。一つは、魅力ある商品・サービスで顧客を満足させ、その対価で自分も富を築く企業。もう一つは、権力と結託して不公正な取引で潤う企業です。いうまでもなく企業としては前者が王道、後者は邪道です。厄介なことに、同じ企業が王道から邪道に道を踏み外す場合もあります。

昔からそうでした。清水廣一郎『中世イタリア商人の世界』によれば、イタリア商人は13世紀、フランドル特産の上質毛織物やイングランドの羊毛をフランスのシャンパーニュの市で取引し、台頭していきます。欧州各地に支店網も巡らしました。

その一方で、王侯貴族ら権力者と結びつきます。権力者にとって、イタリア商人は資金力だけでなく、優れた事務能力や金融の知識も大きな利用価値がありました。

イタリア商人は宮廷の財政を管理する財務官のような役割を担い、貨幣の発行にも知恵を貸します。フランス王フィリップ4世がしばしば行った貨幣の悪鋳の責任は、イタリア商人にあると非難されたほどです。

こうして当初は市場で頭角を現したイタリア商人は、清水氏が述べるように、権力者に密着してさまざまな特権を獲得する典型的な「特権商人」の道を歩みます。

経済力に加え、政治力まで手中にしたのですから、イタリア商人の地位は盤石に見えます。しかし、むしろもろさが潜んでいました。14世紀半ばに英仏間で百年戦争が起こり、両国の王から資金を求められたイタリア商人は、多額の貸し付けを余儀なくされます。その原資には各地の顧客から預かったお金も含まれていました。

結局、英国王に対する過度の貸し付けは取り立て不能となります。一方でフランス王からは敵の英国王に貸し付けを行ったかどで社員が逮捕され、商品は没収、信用が失墜しました。栄華を誇ったイタリア商人は相次いで破産します。

最初は王道を歩んでいた企業が、規模が大きくなるにつれ権力と癒着し、規制や補助金で守られる邪道に陥る例は、近現代の日本でも少なくありません。しかし最後に残るのは、政治に頼らず、顧客に支持される王道の企業です。(2017/11/03

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