2021-05-21

目的か手段か


資本主義を批判し、社会主義への転換を主張する人が強調するのは、地球環境の保全や貧困の撲滅だ。

前回も触れたマルクス研究者の斎藤幸平は「気候危機や格差社会の根本原因である資本主義に緊急ブレーキをかけ、脱成長を実現する必要がある」と訴える

しかし環境保護や貧困撲滅といった目的には、資本主義を支持する側も反対しているわけではない。むしろ賛同している。資本主義と社会主義の違いは、目的にあるのではない。

経済学者ハイエクは1944年に出版した『隷従への道』の第三章で、社会主義者には、社会正義や平等・保障の拡大という社会主義の究極の目的を熱烈に支持するが、それが達成される方法は気にしていないかわかっていない人が多いと指摘する。

社会主義の方法とは、民間企業の廃止、生産手段の私有禁止、計画経済の導入である。この場合の計画経済とは、利益を追求する企業に代わって中央の計画当局が経済を運営するシステムを指す。

社会主義者と自由主義者(資本主義者)の議論で争点となっていることの大半は、じつは社会主義の目的ではなく、その方法だとハイエクは述べる。

民間企業の廃止、生産手段の私有禁止、計画経済といった社会主義の方法が機能せず、人々を幸せにしないことは、ソ連をはじめとする旧社会主義諸国の崩壊で明らかになった。目的ではなく、方法が重要だというハイエクの指摘は正しかった。

現在、社会主義の復権を唱える人々も、さすがにソ連型経済そのままの復活を主張しているわけではない。けれども本質は変わらない。前述の斎藤は、水道や電力、医療、教育といった基礎的なサービスを、住民が管理に加わる「コモン(共有財)」に切り替えるよう提言する。

これら基礎的サービスの質や量を保ち、コストを抑えるためには、絶え間ないイノベーションの積み重ねが必要で、それには利潤追求を原動力とする自由な企業活動が欠かせないことを、斎藤は理解していない。「共有財」という言葉は魅力的だが、それが利潤追求の否定を意味するのであれば、企業家はそのために汗を流そうとはしない。

社会主義の復権を唱える人は、崇高な目的を口にする。だがそれを耳にしたら、ソ連崩壊のはるか前にハイエクが喝破したとおり、手段を冷静に問わなければならない。

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