2021-03-26

偽りの物語


市民革命の時代には神聖不可侵とまでされた財産権などの経済的自由が、現代では「公共の福祉」による大幅な制限を受けるようになった理由として、教科書ではこんな説明がされる。

19世紀末から20世紀初めにかけて、資本主義の高度化が進むなかで、社会的・経済的不平等が拡大し、労働者・農民の苦しい生活を生み出した。そこで国家の社会政策・経済政策によって問題の解決が図られることになった——と。

ところがこの公式見解は、虚構でしかない。後半生を英国で暮らしたカール・マルクスは、資本主義が進展するほど貧困者をますます貧しくし、革命をもたらすと考えた。しかし1883年にマルクスが死んだとき、平均的な英国人は、マルクスの生まれた1818年より3倍も豊かになっていた。1900年には、英国の極貧者数は四分の三も低下しており、人口の10%ほどになっていた(ヨハン・ノルベリ『進歩』)。

マルクスの予言に反し、英国をはじめとする西欧諸国で社会主義革命は起こらなかった。資本主義によって貧困者は貧しくならず、逆に豊かになったからだ。すると西欧の政治家たちは、豊かになった人々の財産を吸い上げようと、政府の力で人々に安心を与えるという幻想を振りまき、福祉国家という収奪装置を築いた。

公式見解はこうした真実を語らない。福祉国家の提供する医療、年金、介護サービスが、自由な資本主義よりいかに劣悪な代物でも、いやだからこそ、資本主義の悪を国家が正すという偽りの物語を、政府は学校教育やメディアを通じて国民に刷り込み続けるのだ。

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