2023-12-27

北朝鮮非核化という空想

ケイトー研究所主任研究員、ダグ・バンドウ
(2023年12月19日)

世論調査では、2024年の米大統領選でドナルド・トランプ氏がジョー・バイデン氏を上回っており、ワシントンの政策立案者たちは、再びトランプ政権が誕生する可能性を考えている。
米国の外交政策に劇的な変化が起こるのは間違いない。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国、DPRK)に対するワシントンの取り組みもそのひとつだ。

政治専門サイト、ポリティコは報じた。「ドナルド・トランプ氏は、北朝鮮に核兵器を保持させ、新たな爆弾の製造を止めるための経済動機を提供する計画を検討している。トランプ氏の考えに詳しい3人の人物が明らかにした」

これは、北が核兵器を放棄するという数十年にわたる国際的な主張を覆すもので、一般にCVID(完全で検証可能かつ不可逆的な非核化)と呼ばれている。これまでは、この政策に疑問を投げかけると、朝鮮半島ウォッチャーたちの間で激しい慟哭と歯ぎしり、衣服の引き裂きが起こっていた。

従来の常識では、北朝鮮の核兵器が増え続けているにもかかわらず、米国は最後まで、あるいは必要であればその先まで、断固として立ち向かわなければならない。見積もりは大きく異なるものの、北朝鮮は少なくとも45~55発、おそらくその2倍の核兵器を製造できるだけの核分裂性物質を保有している。

さらに、北朝鮮は核兵器を増やし続けている。物議を醸したある研究では、北朝鮮は今後数年間で242発もの核兵器を保有する可能性があると警告している。これはイスラエル、パキスタン、インド、英国をしのぐ規模である。

北朝鮮が非核化するとは、事実上誰も信じていない。現存する核兵器を廃絶したのは、わずか6発の核兵器を保有した(もう1発は建設中だった)南アフリカだけである。北朝鮮の武装解除には、金王朝を倒すか崩壊させる必要がある。北朝鮮に関しては、空想が政策になったように見える。

しかしトランプ氏は北朝鮮に関して、これまでの常識を覆す用意があるようだ。またしてもである。トランプ大統領は2017年に戦争を予告した後、金正恩総書記との首脳会談に転じたが、この切り替えはワシントンで広く非難された。交渉人としてのトランプ氏への不信感が広がり、同氏が成功してCVID以外のものに合意することが最も恐れられた。2019年のハノイ・サミットが合意に至らずに決裂した後、金氏は、完全な非核化への確約なしにトランプ氏が経済制裁の緩和には応じないと判断したようだ。そして金氏は米国(と韓国)との対話を打ち切った。

バイデン米大統領はCVIDを主張し続け、北朝鮮に対し再び核実験を行わないよう指図している。金総書記は、時には懇願に近い接触提案をしたにもかかわらず、対話を拒否している。むしろ金氏は、弾道ミサイルの発射実験、人工衛星の打ち上げ、潜水艦発射兵器や戦術兵器の開発、核兵器の先制使用の威嚇など、北朝鮮の核戦力を拡大している。

これらの努力は、今やロシアによって支援されているのかもしれない、ロシアはウクライナ戦争のために砲弾やおそらくそれ以上のものを供給するため、北に依存している。

未来は楽観できない。昨年、最高人民会議が北の核保有を法制化した後、金正恩氏は「核兵器が地球上に存在し、帝国主義と米国とその追随勢力による反北朝鮮工作が続く限り、我々の核戦力強化への道は決して終わらない」と宣言した。

この方針は「不可逆的」だと金氏は付け加えた。核抑止力を強化するのは、米政府との会談に備えるためだろう。おそらく、制裁緩和と核の制限を交換することを提案しているのだろう。

政策立案者たちは、ほぼ一様にこの方針を拒否している。軍備管理では米政府が望む非核化は実現しないからだ。しかし、それでも北朝鮮が核兵器の保有量を増やし続け、パキスタンに代わって世界的な「核兵器保有国」になるよりは、はるかにましだろう。しかし、評論家たちにとってはそんなことは問題ではない。

北朝鮮は核兵器を持つことはできないと主張する者もいる。もちろん持つべきではないが、歴代の米大統領はその点を繰り返し、北朝鮮を紛れもない核保有国として放置してきた。

もう一つの主張は、CVIDを廃棄すれば核不拡散体制が損なわれるというものだ。しかし核不拡散の真の課題は、北朝鮮が核兵器を保有していることであり、その現実を米国が認めていることではない。

もう一つの主張は、韓国と日本が北の非核化に対する米国の取り組みを疑うだろうというものである。しかし北朝鮮が非核化の目標を拒否すれば、米国の態度はほとんど問題にならない。同盟の協力にやみくもな独断専行は必要ない。

一部のアナリストが最も恐れるのは、北の核保有を認めることで、韓国で自前の核抑止力に対する支持が高まることである。繰り返すが、北朝鮮が核兵器を保有していないように装っても、核兵器が消えるわけではない。米政府の無様なCVID政策は、北からの核の脅威と米国の軍事対応の意志を心配する韓国人を慰めることはないだろう。

実際、米国の軍事対応の意志は、今日のダチョウ政策(安全保障上の危機を直視しようとしないこと)にとって最大の問題である。北朝鮮が核兵器とその運搬手段を拡大していることは誰もが知っている。韓国民は、もし戦争になった場合、米国が米本土と場合によっては何百万人もの米国人の命を危険にさらしてでも韓国を守ろうとしている限り、CVIDが重大な目的だという見せかけを受け入れるかもしれない。

しかし残念なことに、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の訪米から生まれた「ワシントン宣言」は、魔法のような思考だった。両政府はこう発表した。「韓国は米国の拡大抑止の取り組みを全面的に信頼し、米国の核抑止力への永続的な依存の重要性、必要性、利益を認識する」

すばらしい言い回しであり、両大統領の仲の良さを考えれば驚くにはあたらない。しかし北朝鮮の軍備が高度化すればするほど、この政策は信用できなくなる。

北朝鮮は米国に先制攻撃を仕掛けるつもりはない。実際、米国が韓国に安全保障を保証し、軍隊を駐留させなければ、北朝鮮はベルギーや、率直にいってインドやオーストラリアよりも米国に注意を払うことはないだろう。しかし米国は北を攻撃する用意があり、戦争になればほぼ間違いなく金王朝を転覆させようとするだろう。

したがって北朝鮮は、戦術兵器と戦略兵器をミックスし、戦略兵器を潜水艦ミサイルと陸上ミサイルに分散させ、陸上ミサイルには複数の弾頭を搭載するという、拡大抑止力を望んでいるのだ。では、米国より韓国を優先するような無謀で非合理的な米大統領がいるだろうか。自国を十分に守ることができる韓国を守ることは、何百万人もの米国人の命を危険にさらすに値しない。

要するに、北朝鮮が米本土を脅かすという信憑性が高まれば、いくら大統領のカラオケを披露しても、拡大抑止力に対する信頼を維持することはできないだろう。少なくとも北朝鮮の核の脅威を和らげる最善の方法は、CVID政策を放棄し、代わりに軍備管理を推進し、制裁の緩和と引き換えに、北朝鮮の核計画に意味のある検証可能な制限を設けることだろう。そして、早急にそうすることである。

少なくとも、現実的な目標を設定することで、成功する可能性は高まるだろう。そして、外交が北を抑制すれば、米国は将来の交渉でCVIDを復活させることができるだろう。おそらく北朝鮮の政策、指導者、体制はいずれ変わるだろう。

トランプ氏の外交政策上の間違いは数多くあったが、北の核問題に関しては、ほとんどの外交政策アナリストに比べれば先見の明があった。それは誰もが望むような形ではなく、ありのままの北朝鮮に対処する意志があると報じられたことでもわかる。北朝鮮は核保有国である。今こそその現実に立ち向かうときだ。

Why Trump is right about North Korea | Responsible Statecraft [LINK]

【訳者コメント】北朝鮮が弾道ミサイルを発射するたびに、日米韓は「強く非難」し、「挑発行為」をやめ、「(非核化に向けた)前提条件をつけない対話」に応じるよう求める。しかしバンドウ氏が指摘するように、そもそも北朝鮮がミサイル発射実験を繰り返すのは、米国やその「追随勢力」である日韓が北朝鮮の一方的な核放棄という非現実的な要求にこだわり、近隣での軍事演習という「挑発行為」や経済制裁をやめようとしないからだ。トランプ氏が大統領に返り咲くことで北朝鮮との緊張緩和が進むのであれば、期待したい。

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