2023-06-20

NATOと永久戦争への道

作家・投資家、デビッド・サックス
(2023年6月16日)

米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は6月14日の記事で、来月〔リトアニアの首都〕ビリニュスで開く北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(サミット)でウクライナのNATO加盟のタイムテーブルを発表するよう、バイデン〔米大統領〕に圧力がかかっていると報じた。
おそらくそれにバイデン氏は後ろ向きで、NATO同盟国の中で「孤立」しているようだ。記事の見方は、同じ記事の最後の段落(かつて〔政治評論家〕ノーム・チョムスキー氏は最初に読めと言った)とも矛盾する。そこではNATOへの加盟が「プーチン氏に戦争続行・激化の動機を与える可能性がある」と「静かに主張する国々もある」と認めている。

実際、ロシアはすでにウクライナのNATO加盟をまったく容認できず、存亡の危機であると宣言しており、その防止を主要な戦争目的の一つにしている。戦争が終わればウクライナがNATOに加盟するというビリニュス宣言は、戦争が永遠に続くことを事実上確実にする。また、平和実現のための西側諸国の重要な交渉材料であるウクライナの中立をテーブルから外してしまうことになる。

バイデン氏への「圧力」は、ゼレンスキー〔ウクライナ大統領〕と一部のNATO東側諸国、とくにポーランドとバルト3国から来ていることは明らかだ。ゼレンスキー氏は2週間前、最終的な加盟について確固たるシグナルがない限り、ウクライナはビリニュス・サミットへの出席さえしないだろうと述べた。NATOの前事務総長で、現在ゼレンスキー氏の顧問であるアナス・ラスムセン氏は「NATOがウクライナの明確な前進に合意できない場合、いくつかの国が個別に行動を起こす可能性がある」とまで脅した。とくに「ポーランドは本気で突入を検討」し、NATOとロシアの直接戦争の引き金となりかねない。

NYTの記事は、ストルテンベルグ現事務総長が、ウクライナのNATO加盟に向けた具体的なタイムテーブルの必要性について強硬派に同意していることを示唆しているが、ストルテンベルグ氏は13日にバイデン大統領との共同演説で、そうした約束をしていない。14日に同氏とNATOは、ウクライナのNATO加盟に関する具体的な日程はビリニュスでの議題にはならないと明らかにしている。ストルテンベルグ氏は「ウクライナの未来はNATOにある」という4月のコメントを繰り返し、ウクライナが「NATOと完全に相互運用できるようになる」ための「複数年プログラム」について加盟国の合意が得られると述べたが、それ以上具体的なことは約束しなかった。

どうやら「孤立」しているのはゼレンスキー氏とロシア国境沿いの同盟国であって、バイデン大統領ではないらしい。

ストルテンベルグ氏の個人的見解がどうであれ、近い将来ウクライナ〔の加盟〕を認めるかどうかという問題でNATOが分裂していることを同氏は知っている。NYT紙でさえ、ドイツ、ハンガリー、トルコの3カ国を挙げているが、これらの国の首脳は将来の特定の時期における加盟に間違いなく反対するだろう。さらに多くの首脳が内々に懸念を表明しており、バイデン氏もその1人であるように見える。

バイデン氏の言動は全般にタカ派だが(そして私は、今回の戦争に至るまでの数カ月、良い外交をしていれば戦争を完全に回避できたと言い続けている)、米国をロシアとの直接戦争に突入させたくないという希望において、みごとなまでに一貫性を保ってきた。ラスムセン氏の脅しは、全加盟国がいずれかの加盟国の軍事防衛を保証する同盟において、代理戦争がいかにたやすく現実の戦争に発展しうるかを示している。同氏のような外国人が、既存の保証を利用して米国を脅迫し、無謀な行動を取らせることができるのであれば、米国民は〔加盟国の1つに対する攻撃をNATO全体への攻撃とみなす、北大西洋条約〕第5条の新たな保証が賢明かどうか疑問を抱き始めるかもしれない。

ポーランドやウクライナという尻尾が、米国という犬を第三次世界大戦に駆り立てるようなことがあってはならない。

バイデン政権の外交政策担当者の一部、たとえばブリンケン国務長官は、NATO加盟がもたらす安全保障をウクライナに与えることよりも、ウクライナに「イスラエルの地位」を与えるという別のアイデアを推し進めている。これは武器、弾薬、資金を含む長期の安全保障(イスラエルの場合は10年間隔)で、現在の反攻の運命や選挙日程に左右されないというものだ。つまり、米国は反攻が失敗しても支援を見直すことはない。実際、厄介な有権者が考えを変えたとしても、支援はなくならないだろう。バイデン氏の「民主主義のための戦争」は、選挙に左右されるにはあまりにも重要だ。

しかし、ここに古典的な「おとり商法」を見る向きもあるだろう。昨年、ウクライナがハリコフとケルソン周辺の土地を奪還した後、米国民はウクライナ側が2023年の春から夏にかけて仕事を終わらせると保証された。この新たなウクライナの反攻は、ロシアの領土獲得を後退させ、おそらくはクリミアに対するロシアの支配を脅かし、それによってロシアを交渉のテーブルに着かせ、戦争を終わらせる。多くの米国人は、この根拠に基づいてウクライナへの1000億ドル以上の予算計上を支持した。暗黙の了解として、これは1回限りの出費であり、新たな永久戦争における毎年の予算計上の基準にはならない、ということだった。

今、反攻緒戦の苦戦とビリニュスでの複数年契約の提案を考え合わせれば、これが嘘か夢物語だったことは明らかである。しかし、これはいつも起こることなのではないだろうか。政府は迅速かつ容易な勝利を約束して我々を戦争に引きずり込み、いったん戦争に巻き込まれると、米国の信頼が危機に瀕するため、どんな犠牲を払っても撤退することはできないと言う。ベトナム、アフガニスタン、イラクの再来である。ただし今回は核武装した敵がいるため、戦争がいつ第三次世界大戦に発展するかわからないというリスクが高い。

NATO加盟国の間で現在行われている議論の中で最も無意味なのは、スケジュールの有無にかかわらず、ウクライナがNATOに加盟するというビリニュス宣言は、戦場におけるウクライナの運命が大きく転換しない限り、実行できない約束だということだろう。このような宣言は、2008年のブカレスト・サミットでの宣言と同じく、ウクライナのNATO加盟を保証することはできない。ただロシア側が必要な限り戦争を継続させ、NATO加盟の阻止を断固として決意していることだけは確かである。

つまり、ウクライナのNATO加盟を「いつか」認めるという我々の主張が意味するのは、第三次世界大戦に巻き込まれたくないという我々の(賢明な)願望とあいまって、「いつか」は決して訪れないということだ。現実的な達成の道筋が見えないのに、なぜ約束を続けるのだろうか。なぜ、いずれにせよほとんど理論上のものにすぎない、NATOの「開かれた扉」という原則をめぐって争うのか。ウクライナが実際に同盟に参加するには、大陸全体の混乱を引き起こすことが避けられないが、そもそもNATOは、そうした混乱を避けるために設立されたのである。

ビリニュスで会談する首脳らはそうした疑問を抱かないかもしれないが、彼らを裁く未来の歴史家はきっと疑問に思うだろう。

Will upcoming NATO summit launch forever war in Europe? - Responsible Statecraft [LINK]

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