2021-04-25

『コロナ自粛の大罪』〜コロナ禍は人災である


経済ジャーナリストのヘンリー・ハズリットは「経済学というものはたった一つの教えに還元することができ、それはたった一つの文章で表すことができる」と述べている。たった一つの教えとはこうだ。「経済学とは、政策の短期的影響だけでなく長期的影響を考え、また、一つの集団だけでなくすべての集団への影響を考える学問である」

ハズリットに言わせれば、経済学的に見て、新型コロナに対する政府の政策は完全に落第だろう。短期的影響ばかりを見て長期的影響を考えず、一つの集団だけを気にかけてすべての集団への影響を顧みない。ジャーナリスト鳥集徹氏が医師七人への興味深いインタビューで構成した『コロナ自粛の大罪』(宝島社新書)を読むと、それがよくわかる。

まずは新型コロナについて基本的な事実を押さえておこう。本間真二郎氏(小児科医・七合診療所所長)が述べるように、「昨年(2020年)一年間の日本での死亡者は3459人です。関連死も含めると一万人から四万人ほども亡くなるインフルエンザに比べたら多くはありません」。そのうえ、PCR検査で陽性だった人は全員コロナ死とカウントされており、「純粋にコロナで亡くなった人はもっと少ない」。

今年(2021年)の死亡者は4月22日時点で6338人(東洋経済オンラインより算出)だが、夏から秋に増加ピッチが鈍る季節性からみて、今後インフルエンザを大きく上回るとは考えにくい。

しかも死亡のリスクには人によって偏りがある。高橋泰氏(国際医療福祉大学大学院教授)の分析によれば、新型コロナは要介護者や基礎疾患のあるハイリスクの人には致死率の高いウイルスだが、ほとんどの人の身体は風邪と同程度の対応で終わっているという。

高橋氏はこう述べる。「ローリスクの人が新型コロナに感染した場合、本人やその人からうつされた人が重症化や死亡に至る危険性はきわめて低いのに、その人を重症や死亡から守る、そして次の人に感染させないという名目で、隔離的処置が行われるようになりました。それによって保健所や医療機関の負担が膨大になったことが、医療崩壊的な状況を招いた一因です」

誤った基本認識に基づくコロナ対策は、社会・経済にさまざまな副作用をもたらす。

高橋氏は「ローリスクの人たちの社会活動を制限してしまうと、当然のことながら景気が悪化し、自殺者が増えてしまいます」と指摘する。過去の傾向からみて、コロナ死から三人を守るために自殺者を八人増やすことになりかねないという。

外出自粛の副作用は孤独だ。森田洋之氏(医師・南日本ヘルスリサーチラボ代表)は「実は人間の健康に一番影響があるのは孤独だということも医学ではよく知られています。健康を害する一番の要因は、タバコでも、酒でも、肥満でもなくて、孤独や孤立感」と指摘する。

和田秀樹氏(精神科医)は、飲食店の営業自粛に注意喚起する。「夜八時までしかお店が開いていないので、家飲みが増えますが、一人で飲むと止めてくれる人がいないので、酒量が増えがちです。終電を気にする必要もないので、夜眠るまで飲むようになってしまう」

とくに高齢者への影響は大きい。長尾和宏氏(長尾クリニック院長)は「閉じこもっているから、年寄りはどんどんやせ細っていく。出歩かないから疲れないし、日光にも当たらないから、体内時計がずれて不眠にもなる。眠れないと体調も悪くなるし、認知機能も低下していく」と話す。

和田氏も「おそらく五年くらいしたら、要介護者が激増するなどの影響が出てくるのではないでしょうか」と述べ、「介護財政が保たないかもしれない」と懸念する。

ある意味で高齢者以上に深刻なのは、子供への影響だ。萬田緑平氏(緩和ケア萬田診療所院長)は「子どもまでがコロナにかからないようにと、マスクや消毒をやらされているから、かわいそうですよね。免疫機能がどんどん弱くなって、何かに感染しただけで死んでしまうかもしれない」と警告する。

前出の本間氏は「子どもたちはコロナに対して最も安全な世代ですよね。二十歳未満はまだ一人も亡くなっていません」と指摘。それなのに「自粛生活によって一番危害を被っています」と批判する。

まるで当たり前のようになったマスク着用や手の消毒にも、良くない影響がある。「マスクを着け続けると酸素の取り込みが減り、二酸化炭素濃度が高くなるから、明らかに健康にはよくありません。手の消毒にしたって、皮膚を守っている皮脂や常在菌まで排除しているわけだし、手荒れの原因にもなる」。本間氏はこう警鐘を鳴らす。

現在の焦点はワクチンだ。本間氏は、ファイザーやモデルナのワクチンは「まったく新しいタイプのワクチン」であり、「とくにmRNAワクチンやDNAワクチンなどの遺伝子ワクチンを人に使うのは初めて」と注意を喚起。「病気の重症度から考えると、未知のワクチンを、リスクを冒してまで打つ必要はない」と、国民全員に打たせる勢いの政府や専門家を批判する。

前出の長尾氏は、子宮頸がんワクチンの副反応で自己免疫性脳炎になり歩けなくなった女性たちに言及し、こう警鐘を鳴らす。「そもそも科学の基本って、疑うことなんです。医療もそうです。それなのに、今回も何の疑いもなく外国からワクチンを大量に買い込んで、医者を使って人体実験しようとしている。こんな恐ろしいことをやっているのに、誰も何も言わないんです」

なぜ、このように愚かな政策しか出てこないのだろうか。一つには、政府に助言する専門家の視野の狭さがある。本間氏は「医者の使命は1%でもその病気を防ぐことです。でも、そこばかりにフォーカスしたら、他のものには目がいかなくなります」と話す。和田氏も「感染者を減らすことを目標にしている限り、どんな市民生活の制限もいとわないことになる」と指摘する。

しかし最大の問題は、政府自身の行動様式にある。

たとえば官庁の縄張り意識だ。木村盛世氏(医師・作家・元厚生労働省医系技官)によれば、コロナ対策の中心である厚生労働省のほか、大学病院は文部科学省、自衛隊ヘリによる患者搬送は防衛省、専用病棟を国有地につくるなら国土交通省、経済対策は経済産業省と管轄が異なる。厚労省は自分たちだけでできないことは各省庁に頼まなくてはいけないのに、それをしていない点で「厚労省の罪はものすごく大きい」。

それ以上に深刻なのは、自分の誤りを決して認めようとしない政府の体質だ。本書をまとめた鳥集氏はまえがきで、「コロナに対する態度を改めるなら、今が絶好のチャンスだ」と述べ、「自分たちの体面を保つために、何の罪もない飲食店や観光業などの人たちを追い詰め、未来ある若者や子どもたちにツケを回すのは、もうやめてもらいたい」と訴える。

鳥集氏が指摘するとおり、「コロナ禍は人災である」。政府を動かす政治家や官僚、専門家のもたらした人災である。彼らは無謬の神などではなく、一般の人々と同じく、過ちを犯す人間でしかない。

冒頭で引用したハズリットは、とかく人間というものは「政策の目先の効果あるいは特定集団にもたらされる効果だけにとらわれやすい」とも述べている。感染の押さえ込みという目先の効果だけにとらわれた緊急事態宣言は、その典型だろう。政府が自分たちで誤りを正さないのなら、国民がノーを突き付けるしかない。

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