2018-09-14

公共サービスと押し売り

経済が停滞するのは、国民がお金を使わないせいである。だから景気を良くするには、政府が国民になり代わって使ってやればよい--。ケインズ経済学を信奉する政治家やエコノミストはこう主張します。本当でしょうか。

「日本のケインズ」として人気の高い元首相・蔵相の高橋是清は、政府の国防費についてこう述べています。

「国防のためには、材料も要る、人の労力も使われる。それらの人の生活がこれによって保たれる。だからこしらえた軍艦そのものは物を作らぬけれども、軍艦を作る費用は皆生産的に使われる」(『随想録』、中公クラシックス。表記を一部変更)

軍事支出は非生産的かもしれないけれど、それで需要が刺激され、雇用も生まれるからいいではないか、というわけです。でも高橋是清は経済にとって肝心のことを忘れています。

商品・サービスの目的は、人を満足させることです。そのためには人が商品・サービスの値段を知ったうえで、買うか買わないかを自由に選べなければなりません。ところが政府が提供する公共サービスは、これらの条件を満たしません。

第1に、値段が不明朗です。安全保障、教育、インフラ整備といったサービスの代償として課される税金は、サービスの質に応じて決まるのでなく、支払う側の所得や資産の額に応じて一方的に決められます。

第2に、購入を拒否することができません。将来もらえるかどうかわからない年金の保険料など払いたくないと言っても、許してもらえません。

このような商売のやり方を、もし民間でやったら何と呼ばれるでしょうか。そう、押し売りです。

もし押し売り屋が人から金を巻き上げるのに成功したら、 高橋是清が言うとおり、押し売り屋の生活は「保たれる」でしょう。けれどもその陰で、買わされた人は不幸になります。

欲しくないものを無理に買わせても、人は幸せになりません。その前提を忘れ、非生産的な政府支出で水増しされた国民総生産(GDP)を喜ぶのは無邪気すぎます。(2017/09/14

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