2024-11-16

ミレイ氏の政治ゲーム

オスカー・グラウ(音楽家)
2024年9月24日

「私は政府を内部から破壊する者だ」 「国家は犯罪組織だ」「課税は窃盗だ」「国家は何もかも間違っている」。 これらはお上品な政治言説の壁を破り、2021年に下院議員となった後、2023年にアルゼンチン大統領の座を射止めたハビエル・ミレイが口にした多くの反国家主義的(あるいは無政府資本主義的)せりふのほんの一部にすぎない。
左派であれ右派であれ、国家主義者が権力を握れば国家主義は前進し続け、あるいは守られる。多くの人々は国家主義と徹底して闘うミレイに期待を寄せていた。しかし、その政治的冒険は、正しい方向への変化を超えて、国家主義に有利な政治ゲーム以上のものではないことが明らかになった。

2024年5月のインタビューで、ミレイは自身の計画に関するおおまかな考えを示した。その説明によれば、「不潔」な税金があり、他に消えなければならない税金、地方に依存し改革が必要な税金がある。ミレイが示した歳出凍結案では、経済が立ち直り成長し始めると、国内総生産(GDP)に占める支出の規模は減少する。そして無数にある税金は、「支払うべき」「理解できる」税金が4つ程度という簡素な制度に移行し、政府規模はGDPの25%となる。ミレイはかつて増税したら自分の腕を切り落とすと約束したが、インタビューでは税は上がったと認めていた。

(リバタリアン思想家)ロスバードの伝統に従えば、歳出を凍結するだけで、さらに削減しない理由はない。ミレイは「簡素な税」論者の1人にすぎないかもしれないが、どの税も望ましいとほのめかし、どの税が「支払うべき」「理解できる」税かを決めるのは独断的であり、反国家主義の精神に反する。政府規模に対する妥当な比率として25%という考えを提案するのは、反国家主義者としては不適切だし、実質経済成長に対する非現実的で貧弱な尺度に基づくことはいうまでもない。

課税が窃盗であるならば、ミレイの増税が「一過性」であることを理由に容認するのは、泥棒がすぐに盗みを減らすと約束したからといって路上強盗の増加を進んで容認するのと大差ない。

ミレイは何年もかけて敵対政党の福祉政策を批判してきたにもかかわらず、2024年6月、ミレイ内閣の経済相はさまざまな福祉政策への支出増を自慢する一方で、「最も弱い立場の人々を念頭に置いて達成された 」歴史的な財政収支について語った。

たしかにミレイの均衡予算には歴史的な削減が含まれている分野もあるが、福祉政策のように支出を増やした分野もあるし、今後もそうする予定である分野もある。したがって、すべては新しい風が吹くかどうかにかかっている。たとえば、北大西洋条約機構(NATO)と米シオニスト帝国主義に味方するミレイの外交政策と、24機のF16戦闘機の購入である。さらにミレイは2024年7月、国防と治安サービスの予算をほぼ倍増させた。また、軍の威信を回復し、近代化を図りたいとして、軍事費は今後8年間でGDPの1.5%増加すると予測されている。

ミレイは就任と同時に、省庁の数を22から9に減らした。この措置は象徴的なものだった。一部の省庁に他の省庁の吸収を命じただけだったからだ。そして2024年6月、ミレイは女性・ジェンダー・多様性省の廃止を完了した。これと国立差別・外国人排斥・人種差別研究所の閉鎖は、税金を財源とする革新主義との闘いとして称賛に値する。

いずれにせよ、2024年7月までに約3万1000人がミレイ政権で雇われなくなった。一方、新規採用者は6月までに3000人近くに上った。政府契約の不更新は珍しいことではなく、ミレイの数字はまだささやかだが、この分野での努力は評価されるべきだ。

(次を抄訳)
Milei’s Political Game | Mises Institute [LINK]

【コメント】グラウ氏は本職はミュージシャンだが、オーストリア学派経済学とリバタリアン政治理論の理解に基づき、ミレイ大統領の負の側面を厳しく批判し続けている。多くのリバタリアンがミレイ礼賛に終始する中で、その分析は非常に有益だ。ミレイ氏の内政は、好戦的な外交政策に比べればましであり、評価すべき点もあるが、現時点で手放しで称賛できるものではない。政治家は演説の美辞麗句ではなく、結果で評価しなければならない。

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