2024-07-14

ニューディール政策は成功したか

秋の米大統領戦で返り咲きを狙うトランプ前大統領の1期目、その経済政策を「トランプ流ニューディール」と評する声が聞かれた。道路や橋、空港、トンネル、鉄道などのインフラ整備に意欲を示したし、メキシコ国境での壁建設も一種の巨大な公共工事といえる。1930年代米国を襲った大恐慌に対し、積極的な経済対策で立ち向かったフランクリン・ルーズベルト大統領のニューディール政策を思わせる、というわけだ。

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しかし今でも広く信じられている、「ニューディールのおかげで米国は大恐慌を脱した」という説はそもそも正しいのだろうか。米経済は1940年代に入っても、ひどく低迷していた。これはルーズベルトが大統領に就任しニューディール政策を始めた1933年から10年近くが過ぎても、成功しなかったことを意味する。

当時の米経済の低迷を顕著に示すのは、失業率である。ニューディールを擁護する専門家は、1937~38年を除けば、失業率は毎年低下したと称賛する。

しかしその見方には無理がある。まず、失業率の水準が高すぎる。1933年から米国が第二次世界大戦に参戦する1941年まで9年間の平均は17.6%で、黄金の20年代と呼ばれた1923~29年の平均(3.3%)の5倍以上である。繁栄を取り戻したとはとてもいえない。

米国史上、大恐慌以前の不況はたいてい2年以内、最長でも5年以内に終わっている。開始以来10年近くたっても不況が終わらなかったとすれば、ニューディールは成功例というよりむしろ失敗例にふさわしい。

また、ニューディールが始まって以来、失業率が毎年下がったというだけでは、それがニューディールの成果によるものなのか、それとも市場経済の自律的回復によるものなのか、判断できない。ここで参考になるのは、第一次世界大戦(1914~1918年)終結直後の厳しい不況とそこからの立ち直りである。

自由放任主義のハーディング政権のもとで、失業率は1921年に11.7%まで上昇し、2年後の1923年にはわずか2.4%まで低下した。年平均4.5ポイント強の低下である。

ニューディールの成否は、過去との比較だけでなく、同時代の他国との比較でもわかる。

ニューディールのような介入政策が行われなかった隣国カナダでは、失業率は1930~33年に大きく上昇したものの、その後改善に向かっている。注目すべきは、米国でニューディールが始まって以来、米国よりむしろ改善の度合いが大きいことである。

ルーズベルト政権に先立つフーバー政権時代(1930〜33年)に米国の失業率はカナダを3.9ポイント上回るだけだったが、ニューディール時代(1934〜41年)にはその差が5.9ポイントに広がった。

欧州諸国の回復も米国より早かった。たとえば英国では1937年には失業率が10.3%まで低下した。同時期の米国より4ポイント低い。

失業率以外の指標を見ても、ニューディール政策の成果は芳しくない。一人あたり国民総生産(GNP)が大恐慌開始時の1929年の水準をかろうじて回復したのは、1940年のことである。本格的な成長は戦後まで訪れなかった。個人消費支出は1940年になっても719億ドルと、1929年の水準(789億ドル)を8%下回っていた。

ケインズ経済学の影響力が増した戦後の経済学会では、ニューディールは政府の介入政策の成功例として長らく称賛されてきた。しかし近年はその風潮にも変化がみられる。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の経済学者リー・オハニアンとハロルド・コールは2004年8月、権威ある学術誌ジャーナル・オブ・ポリティカル・エコノミーに「ニューディール政策と大恐慌の持続」と題する論文を掲載した。それによると、一人あたり実質国内総生産(GDP)は、大恐慌が頂点に達した1933年にはそれ以前の傾向から導いた理論値を39%下回ったが、1939年になっても27%下回っていた。同様に民間労働時間は1933年に理論値より27%少なかったが、1939年になっても21%少ないままだった。

オハニアンとコールは「ニューディール政策は経済を大恐慌から脱出させなかった」と結論づける。むしろ市場経済に介入したせいで米経済の回復は7年遅れてしまったとみる。

ニューディールが思ったほどの成果をあげていないことは、当時から当事者が誰よりも痛感していた。ルーズベルト政権が2期目の終わりに近づいた1939年5月、モーゲンソー財務長官はこう嘆いている。「我々はカネを使おうとしてきた。かつてない規模で使っているのに、効き目がない。〔略〕多数の失業者は当初と変わらない。おまけに、積み上がった膨大な債務。ただ座して時間を浪費するばかりで、くたびれ果ててうんざりだ。なぜだ。まったく光明が見えない」

不成功の教訓は重い。政府が経済をテコ入れしようとさまざまに介入すれば、かえって経済の活力を弱めてしまう。この事実を次の大統領には忘れないでもらいたい。

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