2024-02-15

日本は建国4万年

産経新聞は2月11日の社説で、当日の「建国記念の日」をテーマに取り上げた。元日に能登半島地震が起き、被災地への支援で国民の結束が求められる中、「国を愛してこそ国民の絆も強まる。日本建国の由来と意義を、改めて深くかみしめたい」と訴えた。
震災で崩れた能登の姿に心を痛め、被災した人々に同情するのは、人間として自然の感情だろう。しかし自然に生じる「絆」は、政府によって定められた「建国記念の日」とは何の関係もない。美しい日本列島やそこに暮らす人々の歴史は、日本が「建国」されたというたかだか二千数百年前よりも、はるか昔にさかのぼるからだ。

産経は建国記念の日の由来について、初代天皇の神武天皇が東に軍勢を進めて大和を平定し、現在の暦で紀元前660年2月11日に即位したことによると解説する。この説明ははしょりすぎている。神武天皇の実在そのものからして歴史学的に証明されていないのはともかく、問題は2月11日という日付だ。

『日本書紀』によると、即位は「正月」すなわち1月1日である。そこで明治政府はいったん、旧暦明治6年1月1日、すなわち新暦1月29日を紀元節(建国記念の日の前身)と定めたが、孝明天皇(明治天皇の父)の命日が1月30日だったため、前日では不都合だとして制定し直した。それもどうかと思うが、さらにあきれたことに、制定し直した2月11日という日付の理由が、よくわからない。当時の文部省天文局が「算出」したともいわれるが、算出方法は不明だ。「建国の由来と意義」を「深くかみしめ」るための日付としては、あまりにもテキトーではなかろうか。

そんなことは気にならないのか、産経は、「これは日本が建国以来、一度も滅んでいないということを示している」と誇らしげに書く。天皇家の立場でみれば(「万世一系」が事実だとして)そうなるだろう。けれども当然ながら、天皇による「建国」以前にも日本列島には人が住み、歴史があった。

たとえば、さきほど触れたとおり、神武天皇は即位前、「東征」と呼ばれる戦争で敵対勢力を次々と滅ぼしている。『古事記』によれば、土雲と呼ばれる先住民にご馳走をふるまい、油断したところを斬りかからせて皆殺しにした。土雲からすれば「一度も滅んでいない」どころか、全滅だったのである。

日本列島に人が住み始めたのは、それよりはるか昔、約4万年前の旧石器時代といわれる。もちろん当時、「日本」という国家はなかったが、国土はあり、人々は協力して暮らしていた。そういう意味での「国」は、その頃からあったといえる。

産経は「悠久の歴史を歩む国家の一員であることを喜びたい」と書く。「悠久の歴史」が二千数百年とは短かすぎる。日本の「建国」は4万年前だ。そのころ今と同じ太陽を見上げ、風に吹かれていた人々は、列島の歴史と政府の歴史を同一視する、現代の日本人をきっと笑うに違いない。

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