2023-12-23

ウクライナ戦争、米情報機関の嘘

元米中央情報局(CIA)アナリスト、ラリー・ジョンソン
(2023年12月16日)

バイデン米政権はウクライナ戦争に関する米情報機関の評価の機密扱いを解除し、ウクライナのためにもっと金を出すよう議会を説得する同政権の総攻撃の一環として、すぐにメディアと共有した。政治サイトのポリティコとCNNテレビが報じた情報は、米国が現実からかけ離れ、政治家たちが聞きたいことを伝えるために猛烈に空回りしていることを示すものであり、気がかりである。これらは政治が情報よりも優先される典型例である。
ポリティコの記事「ホワイトハウスがウクライナへの資金拠出を求める中、米国は情報機密を公開」は、(戦況が)膠着状態に陥るようロシアが期待しているという馬鹿げた説に焦点を当て、同国がひどい損失を被っていると主張している。

米国の評価によれば、ロシアはウクライナとの戦争の膠着状態に助けられ、同国に対する西側の支持を失わせ、戦争に勝ちやすくなったと考えている。国家安全保障会議のワトソン報道官は声明で、「ロシアは損失にもかかわらず、攻勢を強めようとしている」と述べた。「ウクライナが戦線を維持し、自国の領土を回復できるよう、我が国がウクライナへの支援を維持することは、今までになく重要だ」

さらに米国の情報機関によれば、西側が支援するウクライナの作戦は一定の成功を収めている。ワトソン氏によれば、10月以来、ウクライナ東部のアウディフカ・ノボパブリフカ間で、1万3000人以上のロシア軍兵士が死傷し、220台以上の戦闘車両が破壊されたという。さらに、ロシア軍はウクライナ東部のアウディフカ、ライマン、クピャンスク周辺を含む標的を攻撃し続けていると付け加えた。

情報機関は、ウクライナで何が起きているのか正確には把握していない。この評価では、ロシアが「西側が支援する作戦」のために甚大な損失を被っているという主張を押し出している。これは、ウクライナにはまだ希望があるというメッセージを伝えるためのものだ。しかし、適切な「情報評価」であれば、3つの基本的な点を指摘すべきだった。

1.10月以降、ロシア側の死傷者が増加しているのは、ロシアが接触線に沿って全面攻勢に転じた結果であること、ロシアはウクライナ軍を長期にわたって維持してきた陣地から押し出すことで著しい進歩を遂げていること。アウディフカが最も顕著な例だ。

2.膠着状態ではない。ウクライナの損害はロシアの損害に比べて少なくとも5倍であり、ロシアはウクライナと違って兵力、戦車、大砲、弾薬の十分な備蓄がある。

3.ロシアの国防産業は戦時体制で操業しており、大量の戦車、装甲兵員輸送車、無人機、飛行機、大砲、弾薬を生産している。米国と北大西洋条約機構(NATO)を合わせても、ロシアが生産しているもののほんの一部にすぎない。

ロシアの1万3000人の死傷者についてはどうだろうか。10月以降、同国が3000人の戦死者と1万人の戦傷者を出していることは考えられるが、これらの損失はソーシャルメディアには反映されず、ロシアの軍事力の低下を示すものでもない。ウクライナは違う。ゼレンスキー大統領でさえ、米上院議員に対し、40歳の男性を徴兵すると語った。つまり、ウクライナの損失があまりに大きいため、戦闘の厳しさに耐えられないほど年老いた男たちを徴兵せざるをえなくなっているのだ。

CNNの報道はさらに不誠実だ。情報機関は嘘をついている。(米国がベトナム戦争介入の口実とした)トンキン湾事件のような嘘だ。ケイティ・ボー・リリス記者が書いた記事を見てみよう。米情報機関の評価によれば、ロシアはウクライナ戦争開始前に保有していた兵力の87%を失ったという。同記者はこう書いている。

ロシアは、ウクライナ侵攻前に保有していた地上部隊の総数の87%、侵攻前に保有していた戦車の3分の2を失ったと、機密解除され議会に提供された米情報機関の評価に詳しい情報筋がCNNに語った。

それでもなお、人員と装備の大きな損失にもかかわらず、ロシアのプーチン大統領は、戦争が来年初めの2周年に近づくにつれ、前進する決意を固めている。米政府高官は、ウクライナは依然として非常に脆弱であると警告している。期待されていたウクライナの反攻は秋まで停滞し、米政府高官は、ウクライナが今後数カ月の間に大きな戦果を上げる可能性は低いとみている。

ロイターは、この評価に含まれる内容をより正確に伝えている。

機密解除された米情報機関報告書によれば、紛争開始時にロシアが擁していた人員の90%近くにあたる31万5000人が死傷したという。報告書に詳しい情報筋が火曜日(12月12日)に語った。

同情報筋によれば、報告書はまた、ロシアがウクライナ軍に人員と装甲車を奪われたことで、ロシアの軍事近代化は18年遅れたと評価しているという。

もしこれが本当なら、ロシアのソーシャルメディアは兵士を埋葬する墓や悲嘆にくれる家族の写真で炎上しているはずだが、少なくともウクライナのソーシャルメディアに登場するような量は存在しない。新しく埋葬された兵士であふれ返っているウクライナの墓地のビデオや写真は何百とある。以下はそのうちの2例だ。他にもたくさんある。

ロシアが40歳や50歳の老人を路上から引きずり出して軍隊に強制的に軍隊に参加させているのではないこともわかっている。それはウクライナだ。対照的にロシアは、2023年の最初の11カ月間に毎月4万人以上の兵士を入隊させている。

メドベージェフ前ロシア大統領(安全保障会議副議長)は金曜日(12月1日)、2023年1月1日から12月1日までに45万2000人以上が契約により軍に採用されたと発表した。

米軍でさえ、このような採用数にはかなわない。米国の情報アナリストは、ロシアが現在220万人にまで軍備を増強しているのは、必要であれば米国やNATOと戦う用意があるからだと議員に伝えなかったのだろうか。

残念ながら、ロシアと全面戦争の方向に進んでいるというニュースがある。ニューヨーク・タイムズ紙の戦争取材班、ジュリアン・バーンズ、エリック・シュミット、デビッド・サンガー、トーマス・ギボンズ・ネフ各記者は、米国がウクライナで指揮を執るために米国の三つ星将軍を派遣することで、ウクライナの軍事計画をより掌握しつつあると報じている。以下はNYタイムズの記事「米国とウクライナは反攻に失敗後、新たな戦略を模索」からの抜粋である。

米国はウクライナに提供する対面の軍事助言を強化し、三つ星の将軍を同国に派遣し、かなりの時間を現地で過ごさせている。米軍とウクライナ軍の将校は、来月ドイツのウィースバーデンで開催される予定の一連の軍事演習で、新戦略の詳細を詰めたいと語っている。…

米国防総省はまた、ドイツの基地からウクライナの支援を指揮するアントニオ・アグト中将を派遣し、キエフ(キーウ)に長期滞在させることを決定した。アグト中将は、ウクライナの軍事指導部とより直接協力し、米国が提供する助言を改善することになると、米政府関係者は述べた。ホワイトハウスは、キエフに米軍事顧問団を常駐させないよう選択しているが、アグト将軍がキエフに頻繁に出入りすれば、その制限をなくすことにつながるだろう。

我々はベトナムでの失敗から何も学んでいない。前線に「顧問」を派遣しても、何も解決しなかった。米軍の現役将官で、他国との連合軍による戦争を実戦経験した者は一人もいない。アグト氏は一人で行くわけではない。少なくとも中隊規模の参謀将校が同行するだろう。ロシアがウクライナの計画部隊を攻撃することになれば、ウクライナの現場で米軍に大きな犠牲者が出る可能性がある。これは狂気の沙汰だ。

少なくとも今のところ、ロシアは武器を使わずにいる。しかし、ウクライナが米国の支援と後押しを受けてクリミア半島でテロ作戦を開始すれば、それも変わるかもしれない。ロシアは自国の市民が西側の兵器によって虐殺されるのを黙って見過ごすつもりはない。アグト氏にはそのことを理解してほしい。そうでなければ、同氏はウクライナでの任務を死体袋に入れられて終えることになるかもしれないし、米国は戦う準備ができていない戦争に巻き込まれることになるだろう。平和を祈る。

Why is US Intelligence Lying About the War in Ukraine? - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

【訳者コメント】日本の保守派や一部のリバタリアンは、CIAをはじめとする米国の情報機関(インテリジェンス)をやたらとありがたがる。しかし情報機関が政府の一部門である以上、どの官庁にもある欠点は免れない。たとえば、時の政治権力にへつらい、権力者に都合の悪いことは言わず、行わない。CIA出身のジョンソン氏が指摘する、「政治が情報よりも優先される」という現実だ。戦争に深く関与する情報機関がそのような行動をとった場合、市民の身体・財産の自由に及ぼす害悪は、普通の官庁をはるかに上回るだろう。

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