2023-07-15

フラット税より人頭税を!

減税につながるとして注目される税制改革のアイデアに、「フラットタックス」(フラット税)がある。所得税について、所得が増えるほど税率が上がる累進課税をやめ、原則同じ税率にするものだ。しかし、フラット税が本当に減税につながるかどうかは、いろいろ疑問がある。


フラット税の導入を唱える人々は、いくつかの利点をあげる。①簡素で理解・申告しやすい②税理士や弁護士に費用をかけなくて済む③他の税金がなくなる④経済成長を促す⑤公平である——などだ。

しかしこのうち、まず①と②は減税とは関係ない。どんなに税がシンプルでわかりやすく、申告の手間が省けたとしても、払う税金の額が減らなければうれしくないし、富裕層や自営業であれば「これなら税理士を雇って節税できたほうがマシだった」と憤ることだろう。

米経済誌フォーブスを発行する富豪スティーブ・フォーブス氏は1996年と2000年の2回にわたり、一律17%のフラット税を公約に掲げ、米大統領選の共和党予備選に立候補したが、いずれも敗退に終わった。同氏のフラット税案は、富裕層など一部の人には減税となるが、子供税額控除や住宅ローン利子控除といった控除が廃止されるため、それらの控除を享受している人々には増税を意味し、不興を買ったのだ。

フォーブス氏の場合もそうだが、フラット税の導入を唱える人はたいてい、同時に各種控除の廃止を主張する。それによって税制をシンプルでわかりやすくするとともに、控除を受けられない納税者との「不公平」をなくすためだという。

だが「不公平」だから控除をなくすというのは、まるで「一部の奴隷が片足しか鎖につながれていないのは不公平だから、他の奴隷と同じように両足ともつないでやろう」というグロテスクな提案と同じだ。個人の財産権を守る自由主義の原則からは、控除をなくすのではなく、少しでも多くの人に広げるのが筋だろう。控除が廃止されたあげく、フラット税の導入後、税率が引き上げられるという踏んだり蹴ったりの展開だって十分考えられる。

③の「他の税金がなくなる」かどうかも不透明だ。フラット税の多くの案では、法人税と配当への所得課税、所得税と相続税などの二重課税をなくすことがセットにされている。実際になくなれば納税者にとって朗報だが、政治交渉の過程で二重課税の廃止が取り下げられてしまうかもしれない。

④の「経済成長を促す」について、フラット税導入後、経済が成長した例として、エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国、ロシアなどがよく言及される。だがそれはフラット税だから成長したというよりも、減税したから成長したと考えるべきだろう。重要なのは税の形式ではなく、減税という中身だ。極端な話、一律15%のフラット税と、1%、2%、3%の累進課税なら、この累進課税のほうが納税者にはありがたい。

⑤の「フラット税は公平」という主張は、もっともらしく聞こえるだけに始末に悪い。累進課税に比べ、一律の税率は公平だと錯覚してしまう。

けれども、よく考えてみてほしい。税は行政サービスの対価だとされる。そうだとすれば、所得の多い少ないにかかわらず、同額でなければならないはずだ。大富豪のイーロン・マスク氏の所得が私の1万倍だとしても、同じパンを買うのに1万倍の値段を払わなければならないのは理不尽である。

もし公平を追求するのであれば、フラット税よりも優れた税がある。全国民に同じ額ずつを課す「人頭税」だ。

フラット税と違い、所得を計算する必要すらない、究極のシンプルだ。所得の少ない人でも払える金額でなければならないから、サブスク方式で月1万円でどうだろう。「高すぎる」という声が多ければ、5000円、あるいはゼロにするのも悪くない。

<参考資料>
  • Tyranny, Thy Name is Flat Tax | Mises Institute [LINK]
  • Flat Tax Folly | Mises Institute [LINK]
  • Rothbard: The Myth of Tax "Reform" | Mises Wire [LINK]
  • The Flat Tax Versus the Flat, Flat Tax | Mises Wire [LINK]

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