2023-02-21

自国政府と戦う人たち

自由の未来財団(FFF)代表、ジェイコブ・ホーンバーガー
(2023年2月16日)

最近、ニューヨーク・タイムズ紙に興味深い記事が載った。「祖国と戦うロシア人、その理由は」というタイトルである。記事は、ウクライナ側でロシア兵と戦うロシア人グループについて述べている。このロシア人たちは、ウクライナに侵攻したロシアが悪いという結論に達し、自分たちが正しいと信じる側で戦うことにした。また、プーチン〔露大統領〕の独裁政権に反対し、プーチンを権力の座から引きずり下ろすべきだと考えている。ウクライナ軍内に「自由ロシア軍団」という特殊戦闘部隊を結成している。
当然のことながら、ロシア政府は祖国への裏切り者とみなすものに対して好意的な見方をしていない。タイムズの記事によれば、「先週、ロシア検察庁は軍団をテロ組織と宣言するよう、国の最高裁判所に提訴した」。

ウクライナの対ロシア戦争を支援している米当局者が、ウクライナとともに戦うロシア人を、良心に従って正しいと信じる側で戦う「愛国者」だと考えているのは間違いあるまい。

しかし米国人が同じことをすれば、米政府の立場がロシアの立場と同じになることも間違いない。つまり、かりに米国がロシアと戦争を始めたとする。米国人の中に、米国が戦争を始めたのは間違っていると考え、ロシア側につくことを決意した人がいたとする。ペンタゴン(米国防総省)や米中央情報局(CIA)がその米国人を「愛国者」とみなす可能性はない。米国の当局者はロシアの当局者と同じ立場に立つことになる。米当局者は自国民をテロリストか裏切り者、あるいはその両方に指定することになる。

実際、米国が正式にロシアと戦争していないにもかかわらず、ウクライナに対してロシア側につく米国人がいれば、今日でも米当局者がそのような立場を取ることは疑いない。その米国人は帰国するや否や、連邦刑務所か、キューバのグアンタナモにある米国の拷問・無期限拘留センターに収容されることになるだろう。

事実、戦争となれば、すべての国民は、たとえ自分の国が間違っていても、自分の国の側で戦うよう期待される。国民は、自分の政府が間違っていると断じるのは自由だが、自分が正しいと信じている側につくのは自由ではない。もしそうすれば、厳しく罰せられ、敵対関係が終わった時には処刑される可能性が高い。

それはもちろん、第二次世界大戦中のドイツ政府の立場でもあった。ドイツ国民は、たとえ自分たちの政府が間違っていると思ったとしても、政権と軍隊を支持するよう求められた。政権を批判しただけでも罰せられた。

それが「白バラ」の物語を際立たせている。私は1996年、「白バラ、反体制の教訓」という記事で白バラについて書いた。歴史上、最も感動的な勇気の物語の一つだと考えている。すばらしい映画『白バラの祈り -ゾフィー・ショル、最期の日々』でも学ぶことができる。

ハンスとゾフィーのショル兄妹は第二次世界大戦中、ミュンヘン大学の学生だった。キリスト教徒だった。自分たちの政府が悪いと考え、「白バラ」という小冊子を数人の仲間とともに密かに出版し始めた。ドイツ国民に反抗と政権の追放を呼びかける内容だった。

当然ながら、ヒトラー政権はゾフィーらを快く思わなかった。ゾフィーらが捕まった後、政権はすぐに裁判を行い、有罪を決定した。逮捕から3日後、ゾフィーらは処刑された。

実は、米国にも自由ロシア軍団と似たようなエピソードがある。メキシコ戦争に先立ち、米当局者はメキシコに対し、同国の北半分を購入する金額を提示した。メキシコはその申し出を断った。諦めきれないポーク米大統領は、メキシコが売却を拒んだ土地を支配する目的で、メキシコとの戦争を仕組んだ。

米軍に所属するアイルランド系兵士のグループは、自分たちの祖国が悪いのであって、メキシコが正しいと断じた。そしてメキシコ側で戦おうと決意した。

当然のことながら米当局者は、ウクライナ側で戦うロシア人兵士にロシア当局が示すのと同じような反応を示した。米軍はメキシコシティに到着して戦争に勝つと、アイルランド系米国人兵士を拘束し、うわべだけの裁判もなく即座に処刑した。拙稿「南部国境沿いの愛国心、その2」 を参照されたい。興味深いことに、メキシコはこの聖パトリック大隊の隊員を愛国者、英雄として讃えている。

また、拙稿「テキサスの自由思想家たち」でも、〔南北戦争時の〕南部連合は間違っていると判断し、代わりに北軍に加わろうと決めたテキサスのドイツ系米国人の集団に何が起こったかを取り上げているので、ご覧いただきたい。

戦争になれば、どの国の国民も良心を捨てて、善悪にかかわらず自国の政権を支持するよう期待される。良心に従って行動する者は不幸である。

What If Americans Were Fighting on Russia’s Side? – The Future of Freedom Foundation [LINK]

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