2022-11-19

経済計算とグレート・リセット

ソフトウェア技術者、ロバート・ブルーメン
(2022年11月15日)

世界経済フォーラム(WEF)が壮大な計画を進めている。その名も「グレート・リセット」。その多くの大胆な目標に含まれるのは、「世界関係の将来像、国民経済の方向性、社会の優先事項、ビジネスモデルの本質、グローバル・コモンズの管理について、それらを決定するすべての人々への情報提供に資する洞察」の提供である。

見たところ良いことずくめだ。しかしその具体的な中身はどのようなものだろうか。多くの異なる研究者(ジェームズ・コーベット、キャサリン・オースティン・フィッツ、パトリック・ウッド、ホイットニー・ウェブ、テッサ・レナ、ジェイ・ダイアー)が、詳細なレベルにおいてきわめて一貫した構想を打ち立てている。グレート・リセット計画には三つの柱がある。小さなエリート集団による技術社会主義、マルサス的な人口観、トランスヒューマニズムである。

この社会主義計画は、すべての私有財産を世界経済フォーラム自身かその代理人が所有することから始まる。一般市民は必要に応じて同フォーラムから短期で商品を借りることになる。それにはリビングルームや交通機関、会議室など一般的に使われるものが含まれる。熟練した人間は、さらに熟練したロボットや人工知能(AI)に取って代わられるため、賃金労働は不要になる。

この計画で奇妙なことのひとつは、エリートたちが、壁のコンセントからの電力や広い居住空間といった普通の品物だけでなく、ホテルや飛行機、スマートフォン、現在私たちが家電と呼ぶもののような贅沢品も、現在と同じように利用し続けることができると考えていることだ(これらの商品はエリートだけが持つことになるため、もはや「消費(者の)財」とは呼ばれない)。

このようなテクノクラート(技術官僚)的な社会の書き換えのなかで、ぽっかりと穴が開いたように見えるのが経済計算である。これはこれまでのあらゆるタイプの共産主義にとっての問題だった。中央計画委員会をテクノクラシー(技術官僚による支配)に置き換えても、それは解決しない。競争によって決まる価格がなければ、さまざまなものの生産に資源を配分する方法はない。これは大量生産にもエリート商品にも等しく当てはまる。大量消費者層なしに、高級品が少量生産されるような世界はない。

エリートが直接個人で消費する商品だけの問題ではない。電力網制御に必要とされる高度なテクノロジーは、高度な市場経済を必要とする。テクノクラート的な電力網制御は、ハイテクインフラに大きく依存する。私有財産と競争的な価格体系がなければ、6Gネットワーク、データセンター、パワーグリッド、携帯電話、埋め込み型チップ、ブレイン・マシン・インタフェース、その他グレート・リセットが描くテクノクラート的なガジェットは存在しなかっただろう。

これらテクノロジーは、資金調達側と、新興・既存企業を通じた起業家側の両方において、自由な交渉と価格発見が行われる起業家的な競争市場の産物である。製品を作る人々は、自由な労働市場なくしてはありえない。そして最終製品である消費財の競争市場がなければならない。

グレート・リセットは労働力のスキルアップを促進することができない。複雑な技術を生産する人々は、何十年もかけて労働市場に参加することで技術を習得する。チップや携帯電話を作るような会社(インテルやアップル)を経営できるスキルを持って労働市場に参入してくる人はいない。人々は一連の仕事を転々とすることでスキルを身につけていく。このプロセスには何十年もかかり、出張や転勤もあり、時には業界や役割を変えて前進するために一歩下がることも必要である。これらの企業の幹部は、他の管理職と競争しながら、管理職の階層をゆっくりと進むことで、何年もかけて管理能力を身につける。

鉱山技術や半導体設計のような複雑な分野で技術を移転する人や機関のネットワークは、人々が出会い、交流し、互いに学び合うオープンさを必要とする。コロナ対策による移動・交流制限は労働市場全体の技能開発を遅らせてしまった。

古いタイプの共産主義では、中央の計画委員会や委員会を想定していた。テクノクラートが描くグレート・リセットでは、中央計画者はAIである。世界経済フォーラムは「ポスト成長経済」についてのビデオ(不気味なBGM付き)を投稿した。現在あるすべてのものを生産するのに十分な資源がなくなったら、経済は「必要性が低いと思われるものの生産を縮小」しなければならないだろう。しかし、このことは別の問題を提起する。何が必要でないかを決めるのは誰なのか。意見の対立は避けられないが、それをどう解決するのか。本当に産業全体をなくしてしまうことができるのだろうか。このビデオは、AIシステムへの呼びかけで終わっている。AIがそうした決定を下すことができると暗示しているのである。

経済学者ミーゼスは中央集権的な計画を批判するなかで、さまざまな起業家による競争の必要性を強調した。起業家はそれぞれの生産資源に異なる価値を見いだし、その資源をどう使うかについて自らの最善のアイデアに従って競争する。そのためには、いろいろな考え方が必要である。中央計画の問題点は、多くの人々の間の競争を単一の計画で置き換えようとすることだ。中央計画はそれ自身に対して競争することができないので、金銭交渉や提案の競争を通じて別の方法を比較評価することは、計画から外されてしまう。ミーゼスは、一人の頭脳が生産のための中央計画を立てることはできないとして、こう主張した。

一人の人間の心だけでは、いかに賢明であったとしても、数え切れないほど多くの生産財のうちから一つの財の重要度を把握するには、あまりにも非力である。一人の人間が無数にある生産の可能性をすべて把握し、何らかの計算体系の助けを借りずに、価値判断を即座に明らかにできるような状態になることはありえない。経済財を生産する労働に参加し、経済的な利害関係をもつ人間の共同体において、経済財に対する管理統制を多数の個人の間で分配することは一種の知的分業を伴うが、これは生産の計算体系や経済なしには不可能であろう。

グレート・リセットのトランスヒューマニズム構想では、人間が人間と機械のハイブリッドに置き換わるとされる。これは埋め込み型の無線コンピューターチップを体内に埋め込むことによって実現される。埋め込まれたチップは、脳を人々のインターネットに直接接続し、無線ユビキタスネットワークのノード(結節点)のような存在になる。チップの目的は、心の監視と制御の両方にある。

人の社会的な信用度を高めるような思考が、ウェブ検索時の入力補完のような形で提案される。もし埋め込みチップが期待どおりに機能し、受信者の思考や信念を制御するならば、人間はロボットになってしまうだろう。ロボットは自らの意志を持たず、AIという中央計画者のたった一つの心の延長線上にある。

たしかに、ある種の作業では人間はソフトウェアに置き換えることができる。しかしさまざまな選択肢の中から、どのように資源を配分するのか。希少な資源を効率的に使うために、生産方式はどのように選択されるのだろうか。生産する価値のある商品とそうでない商品を誰が決めるのだろうか。脳のチップによって誘導される、マインドコントロールされた奴隷は、中央計画者のたった一つの心のコピーでしかない。

前出の研究者たちは、サイコで経済に無知な億万長者の小集団が、全人類を機械に置き換える計画を立案していることを明らかにした。もしエリートたちがその計画を実行に移そうとしたら、どうなるだろうか。その日、私有財産と市場経済、有用なものの生産はすべて停止するだろう。どうなってしまうのか。しかしエリートたちの描く別世界は不可能だとわかっている。不可能なことは起こりえないが、実現しようとすると甚大な破壊が引き起こされる。

(次を全訳)
Economic Calculation and the Great Reset | Mises Wire [LINK]

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