2021-05-29

米、生物兵器の黒歴史


バイデン米大統領が新型コロナウイルスの発生源に関し、中国・武漢の研究所から流出した説も含めて追加調査を行うよう情報機関に命令したことで、以前は陰謀論扱いされていた、ウイルスが武漢のラボで作られたという説が、にわかに有力視されることになった。

これに対し、中国はもちろん黙っていない。外務省の趙立堅報道官は記者会見で「中国の研究所からの流出はあり得ないことが、世界保健機関(WHO)の報告書で結論付けられている。米国は政治的にもてあそび、責任を押し付けている」と米側を非難。追加調査に乗り出す米情報機関についても、イラク戦争の開戦理由となった大量破壊兵器が存在しなかったことを引き合いに「黒歴史は世界に知られている」と一蹴した

さて、趙はもう一つ、重要な指摘をしている。新型コロナウイルスは米国の生物兵器研究が起源との見方を、あらためて示したのだ。

趙は、中国側が以前から問題視している、米メリーランド州にある米陸軍の生物医学研究施設フォートデトリックに言及。「疑惑に包まれたフォートデトリックや、世界に二百以上存在する米国の生物学研究所にどんな秘密が隠されているのか」「米国は世界に説明する義務がある」と強調した

米共和党などは、新型コロナウイルスは中国人民解放軍が生物兵器として開発したもので、それが誤って武漢のウイルス研究所から漏洩したとの説を唱えている。しかし歴史を振り返れば、こと生物兵器に関する限り、米国に他国(とくに中国)を非難する資格がないのはたしかだ。そこには日本の闇の部分もかかわっている。

第二次世界大戦中の1942年、米国は生物兵器の開発計画に着手した。当時のフランクリン・ルーズベルト大統領の指示に基づき、六千万ドルの予算と四千人の人員を獲得。原爆を開発したマンハッタン計画ほど大規模ではなかったものの、その重大性はのちに判明する。

米国が初めて生物兵器を使用したのは、朝鮮戦争(1950〜53年)の際だった。その際、旧日本軍の七三一部隊のデータを利用したとされる。七三一部隊といえば、満洲で囚人に残酷な生体実験を行い、多数を殺害したことで悪名高い

朝鮮戦争で米軍の生物兵器の標的となったのは、中国人だった。1952年、異なる都市で、炭疽菌や脳炎とみられる原因で死亡する中国兵が増え始める。中国と朝鮮で急増する急死を調査するため、医療従事者が動員された。

ベトナム戦争(1964〜75年)では米軍によって大量の生物・化学兵器が使用され、ベトナム人民に後遺症など深刻な影響を残す。1975年、米国はジュネーブ議定書と生物兵器禁止条約を批准し、表向き生物兵器の開発から手を引いたものの、ロシア系放送局RTの記事が指摘するとおり、実際には研究を続けるグレーゾーンが残されている

趙報道官の「疑惑に包まれたフォートデトリックや、世界に二百以上存在する米国の生物学研究所にどんな秘密が隠されているのか」という発言は、そのグレーな点を衝いたものだ。

生物兵器の研究・開発は、それが秘密裏であるほど、人々が気づかないうちに、コロナ以上に深刻な疫病の拡大につながる恐れがある。サキ米大統領報道官は、WHOの調査に中国が非協力的だと不満を示したが、中国を責める前に、米自身の情報開示姿勢を省みるべきだろう。

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