2021-05-25

医療と新自由主義の嘘


新型コロナウイルス拡大をきっかけに世界中で医療崩壊が起こったのは、すべてを市場に任せる新自由主義のせいだ——。こんな主張が有名ジャーナリスト大手メディアによって叫ばれている。

しかし、これほど事実に反することはない。新自由主義の総本山とされる米国の医療の実態を見れば、わかるはずだ。

米国の医療は、食品医薬品局(FDA)や疾病対策センター(CDC)をはじめとする連邦政府の機関によって厳しく規制されている。

昨年春、コロナ感染が広がり始めた当初、連邦政府以外の研究室はウイルス検査方法の開発が禁止された。ところがCDCの検査は判定に二日から一週間もかかったうえ不正確で、規制緩和で民間や州に開発を認めたところ、わずか八時間で判定できる方法が開発された。政府の規制のせいで検出作業が無駄に数週間も遅れた

米国の医療が本当にすべてを市場に任せていれば、こんなことは起こりえない。

ビッグファーマと呼ばれる大手製薬会社が大きな力を持っているのは事実だ。しかしその力の多くは、政府と結びつくことで得られている。活発なロビー活動で多額な補助金を受け、特許に対し強力な知財保護を確保。複雑な規制は、小規模な企業の新規参入を阻む役割を果たしている。

ノーベル賞経済学者のアンガス・ディートンは米国の医療制度について、こう述べる。「自由な市場経済のふりをして、都合の良いときは市場経済の論理を利用するが、実際は人から法外な金を騙し取ろうとたくらむ連中であふれる、巨大な沼地だ」

ディートンは新自由主義を唱える経済学者ではない。むしろ医療には政府の介入が必要だという意見の持ち主だ。そのディートンですら、米国の医療は市場経済のふりをしているだけだと見抜いている。

米国でさえそうなのだから、欧州や日本は推して知るべし。政府がもたらした悪をありもしない新自由主義のせいにする嘘は、いい加減にやめてほしい。

<関連記事>

0 件のコメント:

コメントを投稿