2021-02-13

スチーブンソン『宝島』

カラー名作 少年少女世界の文学 宝島


金貨と銀貨の物語


『宝島』といえば、膨大な財宝だ。「山のような金貨と黄金の箱が積み重ねてあり、たき火の薄い煙をとおして、きらきらと輝いていた」と、昭和の懐かしさあふれる「カラー名作・少年少女世界の文学」版(近藤健訳)では記す。カラー挿絵で描かれた金貨の山の美しさは格別だ。

スチーブンソンがこの物語を出版したのは、金貨が日常でお金として使われていた19世紀後半。今では書けないだろう。金貨は貴金属店や博物館でしかお目にかかれないし、お札はインフレで価値を失う。苦労して見つけた札束の山が五十年前の半分以下の値打ちしかないのでは、話が盛り下がる。

『宝島』の時代は金貨だけでなく、銀貨も使われた。悪役シルバー船長のおうむは「八銀貨! 八銀貨! 八銀貨!」とけたたましく叫ぶ。銀貨をぎっしり積んだ難破船の引き揚げを見ていて覚えたという。ユーモラスだがまがまがしい叫びは、「五百円玉!」ではさまにならない。

主人公の少年ジムは金貨の山をより分ける。欧州の国々のものばかりか、東洋のものも混じっていた。「このよりわける仕事ほど楽しみながらした仕事はないと思う」とジムは語る。金貨は国によってデザインは違っても、重さ当たりの価値は共通だ。

他国のお札を日々揺れ動くレートでいちいち換算しなければならない現代より、真にグローバルな通貨の時代だったといえる。この物語のスケールの大きさは、そんなところからも来ている。

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