2020-09-19

ミラー、ナカガワ『進化心理学から考えるホモサピエンス』

賃金格差の本当の理由


すべての工業社会では、女性のほうが男性より賃金が低い。教育、勤続年数、労働市場での経験といった人的資本の量の男女差を考慮しても、賃金格差は残る。多くの経済学者や社会学者は、この格差は合理的に説明できず、雇用者の性差別によるものだと主張する。


けれども、このよくある主張は正しいのだろうか。本書は近年発展著しい進化心理学の知見から、異を唱える。

大半の経済学者や社会学者は、男女の趣向、価値観、欲求はまったく同じであると考える。しかし進化心理学によると、この見方は間違っている。さまざまな性差は、男女の生物学的な違いと、そこから生じる繁殖戦略の違いに起因する。

男性は競争に勝って、多数の女性と配偶関係を結べば、それだけ多くの子供を残せる。競争しなければ、かなりの確率で子供をまったく持てない可能性に直面する。競争に勝った場合の報酬と競争を避けることの代償との差が非常に大きい。

一方、女性はこの差がずっと小さい。かりに競争に勝って、多くの男性と配偶関係を結べたとしても、産める子供の数には限度がある。それよりも、繁殖の成功にとって一人一人の子供の重要性が男性よりはるかに大きい(第2章)。

古代からの進化によって形成された、この男女の違いは、労働に対する態度の違いにつながる。男は金を稼ぎ、高い地位に就くために、がむしゃらに努力する。女は自分の子供を守り、多くの投資をしてくれる、地位の高い豊かな資源をもたらす男に惹かれるからだ。

これに対し女は、高い地位に就いても繁殖成功度は上がらないから、それほど高い地位を求めようとしない。女性はお金が欲しくないわけではもちろんない。ただ会社で出世したり高収入を得たりするために、子供の面倒を十分みてやれないという犠牲を払いたがらないのだ。

生物学的な性差はあくまで全体の傾向であり、個別には金を稼ぎ、高い地位に就きたいというモチベーションが非常に強い女性も例外的にいる。金を稼ぐことに同じように強いモチベーションを持つ男女を比較した1999年の統計では、女性の賃金は男性の98%であり格差はほとんどない(第7章)。

タブーを恐れぬ進化心理学の主張は旧来の社会学やフェミニズムから目の敵にされているが、本書の議論には説得力がある。男女雇用機会均等法などの法律を振りかざし、無理に平等を強いることが、女性(そして男性)の本当の幸せにつながるのだろうか。刺激に満ちた本書を読み、よく考えたい。

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