2018-08-16

GDPのイデオロギー

国内総生産(GDP)といえば、国の経済規模を測る代表的な統計です。その客観性や中立性を疑う声は、一般市民はもちろん、経済の専門家からもほとんど聞かれません。
しかしGDPの計算方法には、考案当時の政治状況を色濃く反映した偏りがあります。その偏りは、現在も経済政策のあり方に影響を及ぼしています。

政府支出は、今でこそGDP(以前は国民総生産=GNP)に含むことが当然視されています。しかし第二次世界大戦前までは、含めないことが自然だと考えられていました。軍事費に代表される政府の出費は国の経済に貢献しないと考えられていたからです。

ところが第二次大戦を境に、旧来の考えが変化します。軍事費を経済に含まない古典的な考えに従えば、経済は縮小したことになってしまいます。政府にしてみれば都合が良くありません。政府支出を含める形にする必要がありました。

英国は、いち早く政府支出を含める方式に決定しました。このとき活躍したのは経済学者ケインズです。ケインズは国の生産に政府の活動を含めない従来の考えを批判しました。

米国でも1942年に商務省が発表した同国初のGNP統計は、政府支出を含めたものでした。これに対し経済学者クズネッツが政府支出を除くよう主張しました。7月16日付「経済統計は政府の仕事か?」でも触れたように、クズネッツは国民の豊かさを測るべきだと考え、軍事費や経済活動の前提にすぎないインフラ整備費を加えるのはふさわしくないと考えたからです。しかし結局、クズネッツは政治的争いに敗北し、政府の考えが勝ちを収めました(ダイアン・コイル『GDP』、みすず書房)。

生産に政府活動を含めるこの考えは、今では世界各国に広がり、当然と思われています。政府が軍備を拡張し、大規模な公共事業を行えば、たとえ生産の向上に役立たなくてもGDPにカウントされ、定義上、経済成長を押し上げます。

GDPは無色透明ではありません。政府の経済介入を是とする「大きな政府」の思想を色濃くまとっています。GDPによって経済を語る際には、このイデオロギーを念頭に置く必要があります。

今年4~6月期のGDPは年率4.0%の高い伸びでしたが、公共投資の大幅増が一因です。数字が示すほど私たちの暮らしは豊かになったのでしょうか。(2017/08/16

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