2018-08-15

ニクソン・ショックと米社会の分断

46年前の1971年8月15日、ニクソン米大統領はドルの金交換停止を突然発表しました。「ニクソン・ショック」です。当時も国際通貨体制が混乱しましたが、それ以上に深刻な影響は、その後米経済のインフレ体質が強まり、バブルによる格差と社会の分断に道を開いたことです。

ニクソン大統領がドルの金交換停止(対外的な金本位制の停止)に踏み切ったのは、1960年代にベトナム戦争や福祉拡大で大幅な財政赤字を抱え、金との交換を保証できなくなくなったためです。

本来、金本位制とは、通貨の発行量を政府が保有する金の範囲内に抑え、通貨の価値が薄まらないようにする仕組みです。その趣旨からすれば、金が底をついてきたら、政府の支出を削り、通貨の発行を減らすのが筋です。

ところが米政府はそうしませんでした。政府の支出を減らしたくないので、金本位制のほうをやめてしまったのです。これにより米政府は「金の足かせ」(英経済学者ケインズ)から解き放たれ、ドルをいくらでも刷れるようになりました。

米政府は1990年代から2000年代にかけて、中央銀行の連邦準備理事会(FRB)を通じ大量のドルを供給しました。お金を増やすのは経済に良いと考えたからです。一時はそう見えました。米経済は空前の繁栄を謳歌しているように見え、グリーンスパンFRB議長は「マエストロ(巨匠)」と称えられました。

しかし2008年、サブプライム住宅ローン問題を背景とするリーマン・ショックで、バブルに終わりが来ました。失業者が急増する一方で、政府は資本主義の原則を曲げて大企業を救済し、国民の批判を浴びます。FRBは金融危機対応を名目に、またも大量のドルを発行して証券市場を潤しました。「ウォール街を占拠せよ」の叫び声が上がり、労働者と協力関係にあるはずの資本家は「1%」として敵視されます。

米バージニア州シャーロッツビルで先日、白人至上主義者や極右団体のデモがあり、死傷者を出す騒乱となりました。要因はいくつかあるでしょうが、経済格差や貧困への不満、それをめぐる政治対立が底流にあることは間違いありません。

金融情報ブログ、ゼロヘッジによれば、ニクソン・ショック以前は上位1%の所得の伸び率は低く、下位90%の所得の伸び率は高かったのに、同ショックを境に下位90%の所得の伸びが止まり、一方で上位1%の伸びが加速しました。「金の足かせ」を失ったバブル経済では、金融機関など一部業種の収益拡大や株・不動産の売却益、配当などで所得格差が過度に広がるためだとみられます。

ウォール街は株高に沸いていますが、シャーロッツビルの衝突が示す米社会の分断を思えば、経済が健全に発展しているかどうか疑問です。それは同じく「金の足かせ」を捨て去り、未曽有の金融緩和を続ける日本にとっても他人事ではありません。(2017/08/15

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