2018-08-27

金密輸と消費増税

経済犯罪が起こると、犯人をただ非難し、司法当局になんらかの対策を求めて話が終わってしまいがちです。しかし経済犯罪は表面に現れた症状にすぎません。症状をもたらした病根を見極め、メスを入れるほうが重要です。

7月3日付の投稿でも取り上げた、日本への金密輸問題があらためて注目を浴びています。ニッケイ・エイジアン・レビュー(NAR)が8月24日に配信した記事「Gold smugglers take a shine to Japan(金密輸業者、日本にほれ込む)」は海外の経済ブログやSNSで紹介され、反響を呼んでいます。

金密輸の背後には、大きく2つの経済問題があります。まず中国人民元の下落不安。中国の富裕層が人民元に対する信頼を失い、財産を国外に逃す手段として金を利用しているとみられます。「デジタルゴールド」の異名を持つ仮想通貨ビットコインが同様の理由で中国で人気となっていることを思い出します。

次に日本の財政問題です。運び屋が手荷物などに隠し、消費税を免れて日本に持ち込んだ金を貴金属店などに持ち込むと、消費税を上乗せした金額で買い取ってもらえるので、消費税分が儲けになります。政府は2014年に消費税率を5%から8%に引き上げましたが、これが金密輸のうまみを増した格好です。

NARが他メディアの報道として伝えるところによれば、消費税率引き上げのおかげで、運び屋への手間賃や空港係員への賄賂を払っても十分儲けが出るといいます。このままさらに税率が引き上げられれば、密輸に拍車がかかることでしょう。

人民元への不信にしろ日本の財政問題にしろ、その責任は政府の拙劣な経済運営にあります。密輸は「悪いこと」かもしれませんが、犯人だけを悪者に仕立て上げれば、問題の本質から目をそらすことになります。

しばらく前のNHK「クローズアップ現代+」で、密輸業者が消費税を逃れていることを指して「私たちの税金が不法にかすめとられている」と表現していました。しかし、一部の者が税金を違法に逃れたからといって、他の人から税金をかすめ取ったことにはなりません(税金を「かすめ取る」のはつねに政府です)。そのような表現で密輸業者への憎しみを感情的に煽れば、増税で国民を苦しめる政府の責任を見失ってしまうでしょう。(2017/08/27

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