2017-01-12

筒井清忠編『昭和史講義2』


平等主義の呪縛

戦中と戦後の社会は性格がまったく違うと思いがちだ。しかし近年歴史学では、戦中と戦後の連続性が注目される。本書(おもに沼尻正之「第20講」)によれば、キーワードは「平準化」。日本を戦争に追いやった平等主義は戦後も生き残り、自由な社会を脅かす。

ドイツの社会学者ダーレンドルフは、ナチズムには近代化を促進した「社会革命」の側面があると指摘した。強制的同質化政策によって、人々がさまざまな伝統的しがらみから切り離され、結果として突如互いに平等な存在となったという。

日本でも同様の議論がある。三谷太一郎によれば、日露戦争の戦費調達で大幅な増税を実施した結果、税額で選挙権が決まる制限選挙制度下で、選挙権を持つ人の数が大きく増えた。これが大正デモクラシー成立の前提条件になったという。

筒井清忠によれば、戦前の思想のうち社会主義思想、総力戦思想、一君万民思想の三つは平等化を志向する点で共通し、社会を平準化に導いた。実現を担ったのは革新官僚。国家総動員法、一連の社会保険、食糧管理制度などを成立させた。

経済学者の野口悠紀雄は『1940年体制』で、戦後高度成長を成し遂げた日本の経済は、戦中に形成された戦時経済の延長線上にあると指摘。グローバル化経済に適応するには、この古い経済体制から脱却しなければならないと主張した。

経済学者らしく平等主義の幻想にあまりとらわれない野口の議論と異なり、本書の執筆陣は戦後社会を呪縛する平等化を必ずしも克服すべき対象とみておらず、そこには不満が残る。しかし平等主義・民主主義と戦争との親和関係というタブーに踏み込んだのは、貴重である。

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