2014-12-29

『21世紀の資本』の致命的誤り

フランスの経済学者トマ・ピケティ(Thomas Piketty)の著書『21世紀の資本』が世界的なベストセラーとなっている。最近日本語版も発売されたが、読む気がしない。信頼できる評者が書いた書評を見るかぎり、優れた本とは思えないからだ。

英語版が発売された直後の今年4月、著述家ハンター・ルイス(Hunter Lewis)が公表した書評を紹介しよう。

ルイスは次のように書く。『21世紀の資本』は資本主義の致命的欠陥を暴いたとされる。その欠陥とは何か。資本主義の下では、金持ちは他の者よりどんどん金持ちになり、貧富の差がますます開くという。

この主張を裏づけるために、ピケティは「目を見張らせるグラフ」なるものを持ち出す。それによると、米国の所得全体に上位10%の所得者が占める割合は1910年には約40%だったが、1929年の株大暴落の直前には約50%に上昇した。割合はその後低下し、1995年には40%に戻ったが、再び上昇に転じ、2008年の株暴落直前、50%まで高まった。

これが真に意味するところは何か。上位10%の所得の割合はこの間、一本調子で上昇したわけではない。二つの山がある。1929年と2008年の株暴落の直前である。言い換えれば、経済的不平等はバブルの時代に大きくなり、その後小さくなったのである。

それでは、バブルの原因は何か。米連邦準備銀行やその他の中央銀行が過剰なマネーと負債を生み出したことである。バブル時代の特徴として、縁故資本主義(クローニー・キャピタリズム)が激増する。一部の金持ちがウォール街や政府とのコネを通じ、新たに生み出されたマネーを搾取する。

第一次世界大戦と大恐慌の間の歴史、あるいは最近20年間の歴史を振り返れば、縁故資本主義の例は枚挙にいとまがない。しかし(本物の)資本主義の例はわずかなものである。

ルイスはこう述べた後、次のように強調する。「縁故資本主義は資本主義と正反対のものである。縁故資本主義は資本主義からの逸脱である。自由な価格と市場が生み出したものではない」

ルイスのいう縁故資本主義とは、一言でいえば「政官財の癒着」である。本来の資本主義とは、政府の介入を排除した自由な競争によって成り立つ。ところが縁故資本主義は逆に、一部の企業が政治家や官僚と結びつき、競争を排除し、特権的な利益をむさぼる。まさにルイスがいうとおり、本物の資本主義とは正反対である。いわば偽物の資本主義だ。

つまりピケティは、偽物の資本主義がもたらした経済的不平等の責任を、本物の資本主義に押しつけ、批判しているわけである。経済的不平等は悪だという思い込みそのものにも疑問はあるが、それ以前の問題といえる。

ピケティは他の多くの知識人と同じく、本物の資本主義と偽物の資本主義との区別がついていない。これが『21世紀の資本』の致命的誤りである。

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