2025-12-15
ソフィストの復権
2025-12-14
木村貴の経済チャンネル(101本目〜)
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- 孟子の戦争批判(2025/09/11)
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- 織田信長、マネーの原理に敗れたり(2025/09/18)
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2025-12-13
政府は自発的に権力を放棄しない
この記事「Governments Never Give Up Power Voluntarily」(政府は自発的に権力を放棄しない)は、オーストリア学派の経済学者ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスの著作『リベラリズム』からの抜粋です。
要点は以下の通りです。
記事の要点
政府の本質的な傾向: すべての政治権力、政府、支配者は、その支配領域を可能な限り拡大し、国家の干渉なしに起こる事柄を一切残さず、すべてを管理しようとする内在的な傾向を持っています。
私有財産は自由の基盤: 私有財産は、個人が国家から自由でいられる領域を生み出し、権威主義的な意思の活動に制限を設けます。このため、私有財産は個人の自治と、あらゆる知的・物質的な進歩の根源であり、「自由の前提条件」とされています。
政府は自発的に権力を放棄しない: 政治権力は、生産手段の私有財産の自由な発展を妨害するのを自発的にやめたことは一度もありません。政府は、その必要性を認めてではなく、強制されたときにのみ私有財産を容認します。ミーゼスは、「リベラルな政府は矛盾した形容語句である」とし、政府が自発的にリベラルになることは期待できず、人々の総意の力によってリベラリズムの採用を強要されなければならないと主張しています。
財産権攻撃の政治的優位性: 農業だけでなく産業や大企業が存在する社会において、支配者層にとって財産権への攻撃は、政治的に最も有利な行為です。なぜなら、「大衆を土地や資本の所有者に対して扇動することは常に容易なこと」だからです。歴史上、すべての専制君主や暴君は、財産を持つ階級に対して「人民」と同盟を結ぶという考え方を取ってきました。
私有財産の存続: 政府の敵意や、作家、道徳家、教会、大衆からの反対にもかかわらず、私有財産制度が存続してきたのは、それに代わる生産・分配の組織化の試みがすべて、自ずと実現不可能であることが証明されてきたためです。
イデオロギー的敵意は残る: 政府は私有財産を許容せざるを得ませんでしたが、それでも「私有財産は、少なくとも倫理的に十分に進化していない人間がいる限り、当面はなしには済まされない悪である」という、財産権に敵対的なイデオロギーを固く保持し続けている、と結論づけています。
(Geminiを利用)Governments Never Give Up Power Voluntarily | Mises Institute [LINK]
2025-12-12
自然秩序とその破壊
このYouTube動画は、ハンス=ヘルマン・ホッペ氏による「
以下に講演の主要な論点をまとめます。
1. 自然秩序の基盤としての私有財産
ホッペ氏の知的活動の中心は私有財産というテーマであり、
紛争の原因: 紛争は、2人の主体が同じ物理的手段を異なる目的のために使用し
ようとする際に、手段の希少性や競合性から必ず生じます [01:39]。 紛争回避の原則: 紛争を回避するためには、すべての財が常に私的に所有され、
特定の個人や団体によって排他的に管理されていることが必要です [03:03]。 私有財産の確立: 正当な私有財産は、原初的な取得(最初の占有)の行為によって確立されなければなりません [04:42]。最初の取得者は、
以前誰も所有していなかったものを取得する際に、 誰とも衝突しないためです [05:20]。 自然法の提示: これらのルールは、平和的な相互作用という目標に基づいた自然法
を表現し、明快にしたものであり、人為的に作られた( 制定された)法律ではなく、人類によって発見された法であると述 べています [08:27]。
2. 自然秩序の破壊と国家
自然法からの逸脱、すなわち非文明化の究極的な原因は、「暴力の
国家の役割: 暴力の独占を持つ機関は、自身が関わる紛争において常に自分自身
に有利なように偏向するだけでなく、他者とその財産に対して紛争 を引き起こし、開始することができます [18:11]。 人為的な法(立法): 権力の行使における主要な方法は立法であり、
国家に有利になるように自然法の規定をねじ曲げたり、 置き換えたりするために作られた、人為的な実定法が自然法に取っ て代わります [19:34]。 財産権の侵害: その結果、私有財産権は侵食され、国家の布告が、
私有財産の利用方法や、何を生産し消費するか、 何を言うかどうかに至るまで、 細部にわたって規制するようになります [23:38]。
3. 独占体制への対抗
ホッペ氏は、
反対意見の現状: ほとんどの反対意見や批判は、通常、国家機構内の特定の人員や部
門に向けられており、問題の根源である国家そのものの廃止は一般 に考えられていません [25:46]。 状態崩壊の予測: パレートの法則(20:80の原則)を指針として用いるなら、
公の批評家(インテリ層)の約20%が国家を略奪的な企業で あり、道徳的な怪物として認識し、私有財産アナーキズムへと公然 と転向する必要があります [30:50]。そして、この集団が一般市民の20%にも同様の認識をもたらした時、 国家の正当性の剥奪が十分に深まり、 国家は崩壊し始めると述べています [32:16]。
2025-12-11
階級理論のルーツ
歴史家ラルフ・ライコによるこの記事「Classical Liberal Roots of the Marxist Doctrine of Classes(マルクス主義の階級ドクトリンにおける古典的リベラルのルーツ)」は、階級と階級闘争という概念が、マルクス主義以前の古典的リベラリズム、特にフランスの産業主義(Industrialisme)と呼ばれる思想に起源を持っていることを論じています。
以下は記事の要約です。
マルクス主義の階級概念の曖昧さ
マルクス主義は階級と階級闘争の概念と密接に結びついていますが、マルクスとエンゲルスは、階級の明確で一貫した定義を最後まで提供できませんでした。
例えば、『共産党宣言』の冒頭では、奴隷と自由民、貴族と平民などの対立を挙げていますが、これらは主に経済的カテゴリーではなく、法的カテゴリーです。
マルクスは資本論の最後の章で「階級を構成するものは何か?」という問いを立てたものの、原稿は未完のまま終わっています。
古典的リベラルな階級闘争理論
マルクスは、現代社会における階級の存在と闘争の発見について、「自分に功績はない」と認め、「ブルジョアの歴史家」がこの階級闘争の歴史的発展を、「ブルジョアの経済学者」が階級の経済的解剖学を自分よりずっと以前に記述していたと述べています。
マルクスが名指しした「ブルジョアの歴史家」には、フランスのフランソワ・ギゾーやオーギュスタン・ティエリーなどがいます。
ティエリーの協力者であるシャルル・コントとシャルル・デュノワイエが提唱した「産業主義(Industrialisme)」が、このリベラルな階級分析の中心です。
産業主義の視点
産業主義は、社会を「生産者」と「非生産者(または略奪者)」の2つの階級の闘争として捉えます。
生産者階級(Industrieux): 自身の労働によって生きようとする人々、すなわち、財やサービスを生産し、自発的な交換を通じて富を生み出す人々(農民、職人、商人、工場労働者、企業家など)。
非生産者/略奪者階級(Oisifs/Dominators): 他者の労働によって生きようとする人々。これには、国家権力を利用して特権、税金、関税、独占などを通じて富を吸い上げる貴族、軍隊、政府職員、特権的な産業が含まれます。
経済学者ジャン=バティスト・セイの思想が産業主義に大きな影響を与え、彼は富を生み出す「企業家」を称賛し、富を消費するだけの軍隊や政府、特権階級を「非生産的」な階級と見なしました。
アドルフ・ブランキは、すべての革命において対立する二つの党派は「自身の労働によって生きることを望む人々の党」と「他者の労働によって生きようとする人々の党」に過ぎないと述べています。
階級闘争の本質
リベラルな階級闘争理論の本質は、生産者間の調和した利益と、国家権力を手段として利用する略奪者による生産者からの富の搾取との間の対立にあります。彼らにとって、闘争は自由な市場と国家による強制/略奪の間のものです。
結論
この記事は、マルクス主義の階級闘争論が、実はフランス復古王政期に栄えた徹底した自由主義の系譜にあり、そのリベラルな思想家たちは、現代社会における階級対立の根源を、「生産」と「略奪」、すなわち自由な交換と国家の強制の間の闘争として捉えていたと結論付けています。
| 概念 | 古典的リベラル(産業主義) | マルクス主義 |
| 階級の対立 | 生産者(Industrieux) 対 非生産者・略奪者(Oisifs/Dominators) | ブルジョアジー(資本家) 対 プロレタリアート(労働者) |
| 搾取の根源 | 国家権力による特権、税金、関税などの法的・政治的強制。 | 私有財産と生産手段の所有に基づく経済的構造。 |
2025-12-10
国家統制・保護主義・生存圏
この抜粋は、ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスが1944年に発表した著書『万能政府:全体国家と全体戦争の台頭』からのものです。
ミーゼスは、国家統制主義 (Etatism)、すなわち介入主義や社会主義といった国家による経済への干渉政策が、必然的に経済的ナショナリズムと保護主義につながり、最終的に戦争を引き起こすという論点を展開しています。
1. 国家統制主義と経済的ナショナリズム
国家統制主義の性質: 国家統制主義は、自国の利益のみを考慮し、外国人の運命や幸福には関心を持ちません。
国際自由貿易との非互換性: いかなる形の国家統制主義も、国際的な自由貿易の世界では機能しません。国家の介入政策を維持するためには、必然的に国内市場を外国市場から切り離す措置(現代の保護主義)が必要になります。
保護主義の原因: 現代の保護主義は、過去の誤った経済的議論から生じたものではなく、政府による国内ビジネスへの干渉(介入主義)の避けられない結果です。介入主義は生産コストを上昇させるため、輸入品の競争から国内産業を保護せざるを得なくなります。
自由貿易の前提: 国際的な自由貿易は、国内の自由貿易を必要とします。
2. 労働政策と保護主義の必要性
国内コストの上昇: 労働時間の短縮やその他の「親労働」的な法制は、他の条件が変わらなければ生産コストを上昇させます。
競争条件の変化: コストが上昇すると、外国の生産者が国内および海外市場でより有利に競争できるようになります。
保護の要求: そのため、賃金の高い国々の労働者は、より低い賃金で生産された外国製品との競争から身を守るために、輸入関税を要求します(「ダンピング」として非難)。
国際的合意の限界: 国際的な労働法制の平等化(国際労働機関など)は、各国間の天然資源や人口密度による労働生産性の違い(賃金格差)を解消できないため、保護主義に代わる解決策にはなりえません。
3. 関税による独占の発生
コスト上昇の隠蔽: 政府の介入による国内生産コストの上昇を相殺し、競争力を維持しようとする保護関税は、新たな問題を引き起こします。
独占の創出: 国内需要を上回る製品を生産している産業では、関税はそれだけではコスト上昇を完全に相殺できません。関税が国内市場を隔離することで、国内生産者はカルテルを結成し、世界市場価格に関税を加えた水準に近い独占価格を国内消費者に請求することが可能になります。
輸出補助: 国内で独占利益を得ることで、彼らは海外ではより低い価格で販売する(輸出補助金を国内消費者が支払う形)ことが可能になります。
政府の目的: 政府は、国内価格を世界市場より高く保つことを目指しており、独占に対する闘いは見せかけに過ぎません。独占は自由放任資本主義の必然的な結果ではなく、政府の政策(関税)によって作られたものです。
4. 経済的自給自足(アウタルキー)への志向
介入主義と自給自足: 介入主義は市場を国家管理下に置くことを目指すため、国境を越えた国際的な経済関係は障害と見なされ、その究極の目標は経済的自給自足 (Autarky) となります。
社会主義の志向: 社会主義政府もまた、市場を排除しようとするため、経済的に自給自足している状態が「完全」なものと見なされます。
生産性の低下: 保護主義と自給自足の追求は、国際分業を阻害し、より生産性の高い資源を未使用のままにし、世界の生産性を低下させ、生活水準を低下させます。
5. 生存圏(レーベンスラウム)の要求
工業国の懸念: 特に工業国では、他国の保護主義によって食料や原材料の輸入代金を輸出で支払えなくなることへの懸念が高まります。
ドイツ・ナショナリズムの動機: ドイツの攻撃的ナショナリズムは、この経済的窮状への懸念から生まれています。彼らは、食料と原材料の輸入なしには生き残れないと考え、他国が自国市場を閉ざす中で、この問題の解決策として「生存圏(Lebensraum)」を征服する必要があると主張しました。
戦争の動機: ドイツは戦争をしたがっているから自給自足を目指したのではなく、経済的自給自足(アウタルキー)を達成したいから戦争を目指した、とミーゼスは結論付けています。
この分析は、経済的自由の原則からの逸脱(国家統制主義)が、いかにして国際対立を激化させ、最終的に世界大戦へとつながるかを論じています。
2025-12-09
ヘイトスピーチ禁止はなぜ悪か
ルー・ロックウェルによるこの文章は、「ヘイトスピーチ」の禁止は自由な社会と両立せず、悪であるというリバタリアン的な視点から主張を展開しています。
以下に、その主な論点を要約します。
📜 1. ヘイトスピーチ規制への批判
規制の要求: 「ヘイトスピーチ」とされる、女性、黒人、同性愛者、ユダヤ人、イスラム教徒などの様々なグループに対する否定的な発言は、そのグループのメンバーに悪影響を与え、憎悪を助長し、固定観念を定着させ、不快感を与えるとして、禁止が求められている。
例外的な被害者: ほとんどのグループが「ヘイトスピーチ」の被害者になり得ると主張されるが、白人異性愛者の男性やキリスト教徒はそうではなく、規制は主にいわゆる「保護された階級」を対象としている。
自由な言論の価値: 自由な言論の価値は、「ヘイトスピーチ」の悪を上回ると主張されている。
🗽 2. リバタリアンの立場と第一修正条項
自由社会との不適合: リバタリアンの観点からは、いかなる種類の言論であっても禁止することは、自由な社会と両立しない。
財産権としての権利: 偉大なマレー・ロスバードが教えたように、すべての権利は財産権である。誰もが自分の財産上での発言のルールを設定でき、他人の財産上での発言をコントロールする権利は誰にもない。これには「不快な」発言も含まれる。
第一修正条項の厳格な解釈: アメリカはリバタリアン社会ではないが、可能な限りそれに近づくべきである。これは、「議会は、…言論または報道の自由を制限する法律を制定してはならない」という第一修正条項を最も厳格に解釈することを意味し、「いかなる法律も」は「ヘイトスピーチ」に対する法律を含むことを意味する。
🌐 3. 規制の事例と「萎縮効果」
ソーシャルメディアの自己規制: ADL(名誉毀損防止同盟)などの圧力により、Facebookがホロコースト否定コンテンツを禁止し、Twitterが暴力や憎悪的な行為を助長する外部コンテンツへのリンクを禁止するなど、インターネットプラットフォームは自主的に「ヘイトスピーチ」の規制を採用している。
海外でのヘイトスピーチ禁止法: 外国での規制法は、言論に対する「萎縮効果」(chilling effect)をもたらすとして、特にスコットランドの事例に焦点を当てている。
スコットランド憎悪犯罪・公安法(Hate Crime and Public Order (Scotland) Act 2021): 既存の法律を統合・更新し、保護対象グループ(障害、人種、宗教、性的指向、トランスジェンダーのアイデンティティ)に「年齢」を追加し、将来的に「性別」を追加可能にした。
新犯罪の創設: この法案は、保護されたグループに対する憎悪を煽るという新しい犯罪を創設した。
「多様性」の名の下の検閲: 法の支持者は「多様性」を支持するコミュニティを作りたいと主張するが、これは彼らの言う「多様性」に反対する者をコミュニティの一部と見なさないという矛盾を指摘している。
🚨 4. スコットランドでの起訴事例
トランスジェンダー関連の批判: 特に、「トランス」の人々に対し、自己認識だけで性別が変わるという考えに同意しない人々を沈黙させようとする動きが攻撃的であると述べている。
マリオン・ミラー氏のケース: 著名なフェミニストであるマリオン・ミラー氏(50歳)が、トランスジェンダーの自己識別を批判するツイートにより、「悪意のある通信」(malicious communication)の罪で起訴された事例が挙げられている。
彼女は「ターフ」(trans-exclusionary radical feminist:トランス排除的な急進的フェミニスト)であるとして批判された。
彼女は、起訴の根拠となったツイートを具体的に知らされず、最大2年の懲役刑に直面する可能性があった。
最終的に検察官はこの訴訟を取り下げたが、次の人物は「幸運」ではないかもしれないと警鐘を鳴らしている。
最後に文章は、「私たちを検閲し、彼らの正気ではない意見を強制しようとする偏屈者に反対するために、できる限りのことをしよう!」と呼びかけて締めくくられています。
2025-12-08
デモクリトスの合理思想
2025-12-06
見えるものと見えないもの
この記事「That Which Is Seen, and That Which Is Not Seen(見えるものと、見えないもの)」は、フレデリック・バスティアによる古典的な経済学のエッセイであり、機会費用の概念を強調し、良い経済学者と悪い経済学者の違いを説明しています。
🧐 要点まとめ:見えるものと見えないもの
バスティアの主要な論点は、経済学における行動、制度、法律などは、目に見える即時的な効果だけでなく、目に見えない連続的な(そしてしばしば予期せぬ)究極的な効果を生み出すということです。
悪い経済学者: 目に見える(即時的な)効果のみを考慮し、短期的な小さな利益を追求しますが、それはしばしば長期的な大きな悪につながります。
良い経済学者: 目に見える効果と、目に見えない(予見すべき)効果の両方を考慮し、短期的な小さな悪の危険を冒してでも、長期的な大きな利益を追求します。
この原則を説明するために、以下の具体的な事例が挙げられています。
I. 割れた窓ガラスの例(The Broken Window)
🖼️ 見えるもの(The Seen)
店の主人が窓を修理するために6フランを費やし、ガラス屋がその分儲かる。人々は、この破壊行為がガラス産業を活性化させ、お金を循環させたと考え、破壊は利益であるという誤った結論を導き出します。
👻 見えないもの(The Unseen)
店主は窓が割れなければ、その6フランを靴や本など、別のものに使うことができたはずです。
この事故によって、靴屋(または他の産業)は6フラン分の商売を失いました。
結論: 社会全体としては、窓を修理しただけで、他に何も得ていません。もし窓が割れなかったら、店主は窓と新しい靴(または本)の両方を持てたはずであり、破壊によって無駄に失われた価値があるということが分かります。破壊は利益ではない、ということが示されます。
II. 兵隊の解散の例(The Disbanding of Troops)
🖼️ 見えるもの(The Seen)
10万人の兵隊を解散させると、彼らが職を失い、競争が増して賃金が下がるという懸念。また、彼らが消費していた1億フランが市場から失われ、彼らに物資を供給していた業者(purveyors)が損をすること。
👻 見えないもの(The Unseen)
兵隊の維持に費やされていた1億フランは、納税者の手元に戻ります。
納税者はその1億フランを自らの欲求を満たすために使用し、その結果、10万人の新たな生産的な労働者が(兵士として非生産的 =unproductive だった代わりに)市場に参入し、1億フランという資金が彼らの労働を支払うために同時に市場に投入されます。
結論: 供給(労働力)の増加と同時に需要(資金)も増加するため、賃金低下の恐れは根拠がなく、国全体としては、何もしていない兵士に1億フランを払う代わりに、生産的な労働と引き換えに同じ額を支払うことになり、デッドロス(無益な損失)が解消されます。
III. 税金の例(Taxes)
🖼️ 見えるもの(The Seen)
政府職員が税金で給料を得て、それを消費することで産業を活性化させる(例:大臣の豪華な晩餐会がパリの業者を潤す)。
👻 見えないもの(The Unseen)
納税者が税金を支払うことで、本来自分で消費できたはずの金額を失い、その結果、別の業者(例:農場の排水溝を作る人)が仕事と賃金を失うこと。
結論: 政府支出は常に私的支出に取って代わるだけであり、労働者階級全体の分け前を増やすことはありません。ある労働者に生活を保障する代わりに、別の労働者の生活を奪っているにすぎません。
IV. 劇場、芸術の例(Theatres, Fine Arts)
🖼️ 見えるもの(The Seen)
政府が劇場や芸術に補助金(例:6万フラン)を出すことで、それに携わる芸術家、装飾家、衣裳係などの8万人の労働者が賃金を得て、その活動がフランスの栄光と富につながるという考え。
👻 見えないもの(The Unseen)
補助金の元手である6万フランは、納税者から徴収されており、納税者が本来その6万フランで雇うはずだった大工、配管工、鍛冶屋などの労働者が賃金を失うこと。
結論: 補助金は国民の幸福や国全体の労働力を増やすものではなく、満足と賃金を転換(displace)させているにすぎません。政府の援助は、ある種類の労働を優先するために、他の種類の労働を犠牲にしていることになります。
このエッセイ全体を通じて、バスティアは、経済政策を評価する際には、短期的な利益や恩恵を受ける特定の集団(目に見えるもの)だけでなく、資金源である納税者や、彼らが本来行えたはずの活動(目に見えないもの、機会費用)を常に考慮に入れることの重要性を説いています。
2025-12-05
略奪としての戦争
この文章(フレデリック・バスティアの『経済的調和』からの抜粋)は、戦争を「略奪(Spoliation)」の究極的な形態として定義し、生産活動と対比させながら、その経済的・道徳的な悪影響を論じたものです。
以下に主要な論点を要約します。
🗡️ 戦争と略奪の定義
1. 生存手段の二つの源泉
人間(および国家)が生存手段を得る方法は、本質的に以下の二つしかありません。
生産(Production): 創造すること(狩猟、農業、製造など)。これは自然の法則を支配することを目指します。
略奪(Spoliation): 盗むこと(暴力、詐欺、戦争など)。これは他の人間を支配することを目指します。
2. 象徴と本質
生産の象徴は、豊かさをもたらす鋤(すき)に作り変えられた鉄です。生産は、他者から何も奪うことなく無限に富を増大させることが可能です。
略奪の象徴は、破壊をもたらす剣(つるぎ)に作り変えられた鉄です。略奪は、労働が生み出したものを単に移動させるだけであり、一方が満足を得るためには、必ずもう一方に対応する剥奪(privation)を強いることになります。
🧠 略奪(戦争)の根源と経済的損失
3. 戦争の起源
人間は生来、「幸福への欲求」と「苦痛(労働)の回避」という自己利益(self-interest)に基づいて行動します。
労働(生産のための努力)はそれ自体が苦痛であり、人間はこれを避けようとします。
他人の労働によって生産された成果を、自分が労苦を負わずに手に入れることができると気づいたとき、略奪が問題の解決策として提示されます。これが戦争の根源です。
4. 社会的エネルギーの絶対的損失
略奪は、社会全体にとって純粋な損失をもたらします。
略奪者側の損失: 略奪行為そのもの(武装、計画)にも努力が必要であり、それは生産活動に使えたはずの労力を浪費します。
生産者側の損失: 被害を防ぐための防御策(武器、要塞、訓練)にも労力が費やされ、これもまた社会全体にとっては永遠に失われた労働となります。
最終的に、生産者が略奪に抵抗できないと判断した場合、生産そのものが放棄され、損失はさらに拡大します。
🏛️ 社会的・道徳的影響
5. 価値観の転倒
略奪が恒常的になると(征服者と被征服者の関係など)、社会の道徳的基盤が歪みます。
征服者(略奪者)は、余暇、富、芸術、軍事パレードといった「魅力的なもの」を独占します。
その結果、世論は、勤勉な労働者よりも、兵士(略奪者)の生活を称賛し、産業よりも戦争を好むようになります。 被征服者でさえ、最終的には支配者の価値観を模倣しようとします。
6. 結論
戦争は一過性のものではなく、歴史上普遍的に存在し、奴隷制度や貴族制といった社会構造の原因となってきました。略奪は人類の自然な進歩を阻害する「妨げ」ですが、人間社会の調和を達成するためには、長期的には「生産」が「略奪」を克服することが必要であると筆者は主張しています。
2025-12-04
ロスバードの国際関係論
マレー・ロスバードの国際関係論と国家に関する理論の要点は、彼の国家に対するリバタリアン的見解から導き出された、国家の性質と行動に関する記述的分析にあります。
この理論は、国家間の行動を理解するための枠組みを提供しており、その主な特徴は以下の4点に集約されます。
🧐 ロスバードの国際関係論の主要な特徴
ロスバードの国際システムの記述は、国家とその外交政策に関する以下の4つの主要な信条によって特徴づけられます。
1. 国際システムは無政府状態(Anarchic)である
現代の世界において、各地域は国家組織によって統治されていますが、全世界を統治する超国家は存在しません。
各国は自国領域内での暴力の独占を持っていますが、国家間では「無政府状態」が存在します。
国家は本質的に強制の上に築かれた制度であるため、国家に支配される国際システムは部分的に暴力によって特徴づけられます。
国家は自国の利益と保全に焦点を当てるため、国際協力は国家自身に利益がある場合にのみ行われます。
2. 政府は少数支配エリートによって運営されている
ロスバードにとって、「私たち」は政府ではなく、政府は私たちを正確には「代表していない」という古典的な自由主義の搾取理論が中心です。
国家の正常かつ継続的な状態は寡頭制支配であり、これは国家機構の支配権を獲得した強制的なエリートによる支配です。
この寡頭支配は、民主主義の制度の有無にかかわらず真実であり、外交政策の決定は支配エリートによって行われます。
民主主義と独裁の違いは、戦争遂行において、前者のほうが国民の承認を得るためにより集中的なプロパガンダを必要とすることだけです。
3. 国家は自己保全と勢力拡大を目指す
国家は搾取的エリートによって支配されているため、支配階級は自らの権力と富を維持する手段として、国家の保全を最優先します。
戦争と平和に関する事項は支配階級にとって非常に重要であり、彼らは一般納税者を意思決定プロセスから排除するために秘密主義を利用します(例:CIAなどの影の機関)。
国家が最も恐れるのは、他国による征服か、自国民による革命という、自らの権力と存在への根本的な脅威です。
国家は、他国に対して領土と権力を拡大するために征服を追求する傾向があります。ある領土に対する完全な支配は、他国の排除によってのみ達成されるため、国家間には固有の利害の対立が存在します。
戦争は国家に大きな利益をもたらす可能性がある一方で、失敗すれば悲惨な結果を招くため、常に戦争を追求するわけではなく、リスクが高すぎると認識された場合は現状維持を選択します。
4. 戦争はしばしば国内政策の道具である
国家は対外的な勢力拡大の手段としてだけでなく、国内での権力強化の手段としても他国との戦争を利用します。
例えば、第一次世界大戦は、アメリカ合衆国における進歩主義の集大成として、社会主義的な中央計画や連邦警察権力を拡大する機会を国家に提供しました。
冷戦終結後の米国のように、弱小国や遠方の国に対する戦争は、国家にとって比較的「安全」な方法で国内の権力を拡大する手段を提供します。
結論
ロスバードの見解は、国際システムは自己利益を追求する支配階級によってコントロールされる国家から構成されており、これが現実のあり方であると示しています。彼は、平和と人権の追求は、国際戦争、軍拡競争、徴兵制、警察国家など、国家の戦争遂行能力を高めるあらゆる制度や戦略に対する一貫した反対を必要とすると主張しています。


