2024-08-04

グローバル化の恩恵と希望

世界は良くなっているのか、悪くなっているのか。ニュースを見ていると、つい悲観的になってしまいがちだ。しかし、報道には一定の偏りがあることを忘れてはならない。悪いニュースは高い視聴率や閲覧数につながるから多く報道されるが、良いニュースはめったに報道されないという偏りだ。

OPEN(オープン):「開く」ことができる人・組織・国家だけが生き残る (NewsPicksパブリッシング)

それでは、人類の本当の姿はどうなっているのだろうか。第二次世界大戦後、世界で起きた変化のいくつかを具体的な数字で見てみよう。

▽1950年に出生時の平均寿命はわずか48.5歳だった。2019年には72.8歳になっている。50%も伸びているのだ。
▽1950年の出生児1000人のうち、20.6人が5歳の誕生日を迎える前に亡くなった。その数は、2019年にはわずか2.7人。87%の減少である。
▽1950年から2018年の間に、1人あたりの平均所得は3296ドルから1万5138ドルへと上昇した。インフレ調整後で359%の増加だ。
▽1961年から2013年の間に、1人あたりの1日の平均食料供給量は2191カロリーから2885カロリーに上昇した。31.7%の増加である。
▽1950年、人が通常受けられる学校教育の長さは2.59年だった。2017年には8年となった。これは209%の増加だ。

これらのデータは米シンクタンク、ケイトー研究所が運営するウェブサイト「ヒューマン・プログレス」に掲載されたものだ。メディアに日々あふれる暗いニュースに覆い隠されがちだが、世界はこの約70年間、驚くようなスピードで良くなっている。

さらに長期間でみても、ほぼ同じことが言える。同研究所の主任研究員マリアン・テューピー氏によれば、「近代」と呼ばれるこの2〜3世紀は、人類がおもに農耕民族として生きたそれまでの1万2000年だけでなく、人類出現以来の30万年とは根本から異なる。古代シュメールの農民は古代エジプト、古代ローマ、大革命前のフランスには違和感なく住めるだろうが、「1900年や2000年頃の先進国の生活は理解できないだろう」という。

同氏が指摘するように、古代ギリシャの女性は男性の所有物だった。これに対し現在、女性は多くの国を運営し、大半の国で投票権がある。男性が危険な仕事をしたり、外国の戦争で戦ったりして死ぬ可能性は昔よりずっと低い。奴隷制はおそらく農業の誕生以来、存在していたが、18世紀英国で組織的・持続的な反奴隷運動が起こった。昔、児童労働と体罰は珍しくなかったし、同性愛は罰せられた。動物への残酷な行為はいたるところで行われていた。魔女狩り、人肉食、新生児遺棄、人間の生けにえも忘れてはならない。

テューピー氏は、悪いニュースが高い視聴率や閲覧数を集めやすい現象には、人間の進化で形成された特質が関係していると指摘する。人間のハードウェア(脳の構造)とソフトウェア(心理学)は、否定的な事柄に強く反応するように進化してきた。これは危険・残酷・不快な世界で生き残るには適切なメカニズムだ。脅威かもしれないものに過剰反応し、それが偽物だとわかっても、取り越し苦労で済む。しかし本物の脅威に過小反応しかしなかったら、命にかかわる。

けれども世界が大きく変化した今、人類にとって重要なのは、脅威を過剰に恐れ、規制によって安全を求めることではない。歴史から正しい教訓を学び、世界の繁栄は個人の自由、経済の自由と深く結びついていると理解することだ。それができなければ、「経済が停滞し、自由が後退する恐れさえある」とテューピー氏は警告する。

経済の繁栄にとって、カギを握るのは他者との協力だ。同じくケイトー研究所の主任研究員ヨハン・ノルベリ氏は著書『OPEN(オープン)』で、その理由を以下のように説明する。

ホモ・サピエンスは協力的な生物種だ。人間は他の多くの動物に比べると、特に強くもないし足も遅いし、外皮も弱いし空も飛べず、泳ぐのもあまり上手ではない。だが、圧倒的な優位性をもたらす別のものがある。他の人間たちだ。

言語の発達と、社会関係を把握する過大な脳のおかげで、大規模な協力が可能になり、他人のアイデア、知識、労働が使えるようになった。この協力のおかげで、人工的な強さ、速度、衣服や医療という優れたものが得られた。そして動物界のどんな生物よりも速く空を飛び、海を渡れるようにすらなった。

人は生まれながらの交易者だ。たえず他人とノウハウや頼みごとや財を交換し、自分一人の才能や経験に限定された場合よりずっと多くのことを実現できる。

「今日のグローバル化は、この協力を国境を超えて拡大し、世界中に広げて、ますます多くの人々が、世界中のどこにいようとも他人のアイデアや仕事を活用できるようにしただけの話だ」とノルベリ氏は指摘する。

同氏はさらに、「洞察の数、アイデアや解決策の組み合わせは、潜在的に無数にある。あらゆる知識を使い、あらゆるアイデアを試す唯一の方法は、みんなの好きにさせて、自由に協力しやりとりができるようにすることだ」と強調する。

経済学者ミーゼスは「社会とは、協調行為であり、協業である」としたうえで、「社会的協業の組織下では、社会構成員の間に、同情と友情の感情や連帯感を生むことができる。これらの感情は、人間の最も喜ばしい、最も崇高な経験の源泉である。これらは、人生の最も貴重な光彩であり、動物の一種族である人間を、本当に人間的な存在の高さにまで引き上げる」と述べる

ミーゼスが言うように、人間同士の協力は、互いに経済的な恩恵を生むだけでなく、友情や連帯感を育む感情面の効果もある。グローバル化によって協力が世界に広がれば、国家間の対立を和らげ、平和をもたらす役割を果たすだろう。

ウクライナ紛争をきっかけに米欧日がロシアに対する経済制裁に踏み切り、これまで順調に発展してきたグローバル化にブレーキがかかろうとしている。これは憂慮すべき事態だ。世界が再び繁栄と希望の道を歩むためには、早期の停戦を実現するとともに、効果に疑問も持たれる経済制裁を中止し、世界の人々の間に経済的な協力関係を復活させることが欠かせないだろう。

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