2023-12-03

世界経済、ロシアを超える脅威が襲う日~巨額債務、西側先進国を蝕む

ロシアがウクライナで軍事行動に乗り出してから2カ月半。戦争に収束の兆しは見えない。むしろ米欧側の国内事情もあり、さらに長引く恐れがある。


バイデン米政権は6日、ウクライナに1億5000万ドル(約200億円)相当の追加の軍事支援を決めたと発表した。2月24日にロシアが侵攻して以来、米国が決めたウクライナへの軍事支援はこの発表分を含め38億ドルに達する。

同政権はさらに、2022会計年度(21年10月〜22年9月)に計330億ドルの追加予算を計上するよう議会に要請している。予算計上の時期からみて、少なくとも今秋まで戦争を続ける構えのようだ。

11月8日には米中間選挙を控える。政権支持率が40%台前半と過去最低水準に低迷し、投票に近いタイミングでそれなりの「戦果」を誇示したいという事情もある。

同じく対ロシアで強硬姿勢をとる英国も、ジョンソン首相が官邸でのパーティー開催問題や物価高騰で非難を浴びている。5日に投票が行われた統一地方選は、同首相率いる与党・保守党が敗北した。逆風が強まるなか、批判をそらすのに都合のいい戦争は、すぐに終わってほしくはないはずだ。

しかし米欧に日本などを加えた西側諸国が、ロシアの「弱体化」(オースティン米国防長官)という無理のある目標を掲げて戦争支援を続ければ、やがてロシアを上回る脅威に襲われるだろう。それは外敵ではない。各国を内側から蝕む巨額債務だ。

ロシア、「金本位制」復活の見方


ロシア大統領府は4月29日、通貨ルーブルと金やその他商品の交換比率を固定することを検討していると明らかにした。 ペスコフ大統領報道官が記者団との電話会見で「この問題をプーチン大統領と話し合っている」と表明した。ロイター通信が報じた

ロシア中央銀行のナビウリナ総裁は記者会見で「いかなる形でも議論していない」と語っているものの、実現すれば、米国が1971年の「ニクソン・ショック」でドルと金の交換を停止して以来の金本位制復活となる。

金本位制とは、金を本来の通貨とする制度だ。中央銀行の発行する紙幣はいわば金との引換券で、一定量の金と交換(兌換)が約束されている。中央銀行は紙幣を大量に発行しすぎると、金との交換を次々に求められた場合、保有する金が底をついてしまう。米国が約半世紀前、金・ドルの交換停止に追い込まれたのは、まさにそれだった。

1960年代、米国は国内消費の増加に加え、東西冷戦を背景に新興独立国へ莫大な経済援助を行ったり、ベトナム戦争で軍事費が膨らんだりしたことなどから、国際収支が大幅な赤字となった。各国は獲得したドルを米中央銀行である連邦準備理事会(FRB)に提示し、金への兌換を請求したため、大量の金が海外に流出。ついに金の準備高が事実上底をつき、1971年8月、当時のニクソン米大統領が金・ドルの交換停止を緊急発表した。このニクソン・ショックで、金本位制は世界経済から姿を消した。

政府債務、「ニクソン・ショック」後に急膨張


金本位制の廃止によって、FRBは金の保有高に縛られず、ドルを自由に発行できるようになった。一見良いことのように思えるが、ひとつ問題があった。お金を自由に生み出せる「打ち出の小槌」を手にした人間は、節度のある使い方をすることが難しい。予算のばらまきが大好きな政治家なら、なおさらだ。ドルが大量に発行されるのと並行して、政府の借金が急膨張していく。

米連邦政府の総債務は1970年末に約4000億ドルだったが、今年1月末に初めて30兆ドル(約3450兆円)に達した。約半世紀で75倍に膨張している。約30兆ドルのうち、国債など連邦政府自身の債務が約23兆5000億ドル、社会保障基金などその他の公的機関の債務が約6兆5000億ドルとなっている。また、外国に対する債務は約7兆7000億ドルあり(2021年11月時点)、そのうち日本に対する債務が約1兆3000億ドルと最も多く、中国の約1兆1000億ドルが続く。

世界全体でも債務は膨らんでいる。とくにここ十数年は2008年のリーマン・ショックをきっかけとする世界金融危機、2020年からの新型コロナ感染症の流行に対し、各国政府が財政による対策に乗り出したため、公的債務の増大に弾みがついた。

国際通貨基金(IMF)によると、2020年に民間部門を含む世界の債務は第二次世界大戦以降、最大の年間増加額を記録し、債務残高は過去最高の226兆ドル(約2京5800兆円)に達した。対国内総生産(GDP)比は28ポイント上昇の256%となった。

債務増加額の約半分は政府が占め、残りは非金融企業と家計部門だ。公的債務は今や世界全体の40%を占め、ここ60年弱で最大となっている。世界の公的債務は対GDP比で過去最高の99%に跳ね上がった。

債務拡大はとくに先進国で顕著で、公的債務の対GDP比は2007年の約70%から、2020年には124%まで上昇した。中国を除き、新興国・途上国の割合は比較的小さい。

世界の債務は「危険水準」、IMFが警告


IMFは4月11日に公表した論評で、世界の債務負担が「危険な水準」に達したと警鐘を鳴らした。新型コロナ対策がいまだに多くの政府予算に重くのしかかるなか、ウクライナでの戦争を受けてリスクがさらに増したためだ。「負債の透明性を改善し、債務管理の政策および枠組みを強化するために、当局者による改革が急務」と呼びかけた。

しかし米欧は政府債務を削るどころか、ウクライナへの軍事支援に勢いづいている。日本は政府債務の対GDP比が235%と世界でも突出して高いにもかかわらず、2022年度予算は一般会計総額が約107兆円と10年連続で過去最大を更新した。さらに物価高騰対策として数兆円規模の国費を投じる予定だ。

これまで世界で巨額債務のリスクが金融危機やハイパーインフレなどの形で表面化しなかったのは、金利が低く抑えられていたからだ。しかし、その前提は崩れ始めている

ロシアの金本位制復帰が実現するかどうかはわからない。けれども半世紀前に金本位制を捨て、借金を野放図に積み上げてきた西側先進国が、遠からずそのツケを払わなければならないのは間違いない。

*QUICK Money World(2022/5/17)に掲載。

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