2023-11-10

企業増税は経済を滅ぼす

大企業が税負担を回避するため、資本金を1億円以下に減資する動きが広がっている。今年3月までの1年間に資本金1億円以下に減資した企業は1235社で前年の959社から3割近く増えた。特に売上高が100億円超の企業や黒字の企業が増えているという。
1億円以下に減資すると税法上、中小企業として扱われ、税負担が軽くなる。都道府県が課税する法人事業税の外形標準課税は、大企業は赤字でも資本金などに応じて課税されるが、中小企業になれば課税対象から外れるなどのメリットがある。

自民党の宮沢洋一税制調査会長は日本経済新聞のインタビューに答え、資本金を1億円以下に減らして税負担を軽くしようとする企業が相次いでいることについて、「たいへん問題がある」と指摘。外形標準課税の適用基準を拡大する意向を示した。

節税目的ではない企業まで負担増になりかねないとの懸念に対し、宮沢氏は「余波が来るのは避けたいという気持ちはわかる。節税したいがために大企業から中小企業に移ってきた企業だけを抽出できるような制度にできるかどうかが一番大事だ」と説明した。

日経も社説で「税の公平性を保つ観点から、もはや現状を放置すべきではない」と述べ、「政府・与党は中小企業化による税回避を防ぐ対策を、来年度税制改正でしっかり講じてほしい」と求める。

しかし、問題があるのは企業ではなく、むしろ税制のほうだ。

そもそも、企業がわざわざ減資してまで税負担を回避しようとするのは、税負担が重すぎるからである。そうした動きが広がっていることに対し、政府・自民はまず、企業に重い税負担を課していることを反省しなければならない。「たいへん問題がある」などと企業を悪者扱いするのは、とんだ心得違いだ。

東京財団政策研究所主席研究員の柯隆氏は日経の記事へのコメントで「課税されるほうが制度的に節税を図るのは当然である」と企業側を擁護している。まっとうな意見だ。

一般市民の間には、税逃れと聞くと、問答無用で「けしからん」と腹を立てる人が少なくない。けれども経済が繁栄するためには、税逃れはむしろプラスになる。

資本主義経済の発展にとって最も重要なのは、資本主義という言葉が示すように、「資本」である。資本とは、現在・将来の生活水準向上につながる道具、設備、資源の蓄積をいう。この資本に課税すれば、資本の蓄積を減少させ、新規の投資だけでなく設備や道具の買い替えを抑制し、経済の発展を妨げる。企業への課税強化は、企業が有する資本への課税強化にほかならないから、将来の社会を貧しくする。「金の卵を産むガチョウを殺す」ようなものだと米経済学者マレー・ロスバード氏は指摘する。

ところが政治家、とりわけ民主主義国の政治家は、次の選挙のことしか頭になく、長期の経済発展よりも、バラマキの原資となる税収の確保を優先する。だから企業の税逃れは「たいへん問題」ということになり、なんとか税逃れを防ごうとする。逃げる奴隷をつかまえようとする奴隷主と同じだ。

日経は「税の公平性」が大切だというけれども、税の公平性を保つ方法は、課税強化だけではない。大企業への課税を軽くし、中小企業にそろえるという道もある。そうすれば、わざわざ節税のために減資する企業はなくなる。むしろそのほうが企業全般の税負担が軽くなり、経済にはプラスだ。

宮沢自民税調会長は、節税目的の企業に限って外形標準課税の適用基準を拡大し、減資による税逃れを防ぎたいという。しかし、節税目的かどうか、どうやって判断するのだろう。尋ねられればどの企業も「我が社はやむにやまれぬ事情で減資するのであって、節税目的ではない」と主張するに違いない。

この点について、京都大学教授の諸富徹氏は記事へのコメントで「減資が節税目的であることを政府が証明しえた場合のみ課税できるのであれば、宮沢会長の方針は限りなく、骨抜きとなるでしょう」と指摘したうえで、「節税目的でない企業を除外するなら、新基準の下で原則課税としたうえで、減資企業の側に節税目的でないことを挙証する責任を課すべきではないでしょうか」と提案する。

これは乱暴すぎる。企業が財産を保有することは憲法でも保障された権利だ。財産を政府が課税によって徴収する際、取られる側に挙証責任を負わせるのは、徴税権の濫用であり、財産権に対してあまりにも無頓着な考えといわざるをえない。

政府が企業の重い税負担を反省せず、「税の公平性」を錦の御旗に押し立て、さらに課税を強化すれば、やがて金の卵を産むガチョウが死ぬように、日本経済は衰退するだろう。

<参考資料>
  • Man, Economy, and State with Power and Market | Mises Institute [LINK]

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