2023-07-06

ハイパーインフレにどう備えるか

ハイパーインフレは二つの意味で怪物に似ている。「そんなものが出るはずはない」と多くの人が笑う。そして実際に出現すると、笑った人も笑わなかった人も餌食になる。


現代の経済学の教科書の多くは、ハイパーインフレは物価が1カ月に50%以上上昇したときに起こると述べている。しかし毎月50%の物価上昇ということは、年間インフレ率が1万2900%近くになることを意味する。例えば、コーヒー1杯の値段が1年以内に300円から約3万9000円に上昇することになる。これは完全に異常だ。

インフレが異常な領域に突入しないうちに歯止めをかけるには、月50%の物価上昇というハイパーインフレの基準は高すぎる。もっと低く、例えば月3%の物価上昇が続いた時点でハイパーインフレと呼ぶべきだろう。

ハイパーインフレを止めることはできるのか。答えは、理論的にはイエスだ。中央銀行がマネーサプライ(通貨供給量)の拡大を止めればいい。しかし、これは現実にはたやすくない。多くの人々が政府からの財政支出に依存しており、その財源の多くは事実上、中央銀行が国債を購入する財政ファイナンスによって賄われている。だから人々は少なくとも当初は、たとえ物価上昇率が拡大しても、金融緩和が続くことを好む。

しかし金融緩和による通貨価値の下落は、ある臨界点を超えると、経済・社会に大きな混乱をもたらす。

通貨が安くなると、国内に入ってくるあらゆるものの価格を押し上げる。米国の場合、ヘリテージ財団のエコノミスト、ピーター・セントオンジ氏が論じるように、ドル安で最初に跳ね上がるのはガソリン、暖房用燃料、食料品などの値段だ。次に、自動車、鉄鋼やコンクリートなどの建設資材、衣料品、家具、テレビ、コンピューター、医療機器などが続くだろう。

そしてクライマックスである資本流出が始まる。外国人が神経質になれば、ドルだけでなくドル建ての資産も売り始める。とくに流動性の高い株式、社債、国債などだ。米国株は約40%、社債は約3分の1をそれぞれ外国人が保有している。外国人が逃げ出せば、どちらの相場も急落する。そうなれば確定拠出年金(401k)はほぼ半分になり、企業の借入コストはありえないレベルにまで上昇する恐れがある。米国債も3分の1は外国人が所有しており、その額は8兆ドルを超える。外国人が国債を投げ売りし始めれば、米国債の元利払いは年間数千億ドルも高騰する可能性がある。

こうした混乱を鎮めるために、中央銀行である連邦準備理事会(FRB)がさらに何兆ドルもの資金を経済に流入させれば、物価上昇は一気に加速する。ハイパーインフレの怪物が人々のドアをノックし、最後にはドアを蹴破るだろう。

独エコノミストのトルステン・ポライト氏は「いつ起こるかはわからないが、私の考えでは、不換紙幣制度でハイパーインフレが起こる可能性は非常に高い」としたうえで、「ドルやユーロなどの政府通貨を信用しないことだ。可能な限りお金を持たないこと」とアドバイスする。

同氏によれば、当座の支払いに必要な預金以外は、お金を再配分するのが最善である。例えば、コインや延べ棒の形で現物の金や銀にする。あるいは株式を購入する。専門家でない場合は、世界分散株式投資の上場投資信託(ETF)や投資信託でもいい。

「生産資本(すなわち株式)に投資し、貴金属を現物で(すなわちコインや延べ棒として)保有することは、多くの人々にとって、簡単かつ実行可能で低コストな投資戦略だ。お金の購買力が絶えず、さらには加速して破壊される影響から、少なくとも部分的に逃れるのに役立つだろう」とポライト氏は述べる。

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