2023-01-30

言論の封殺、帝国への転落

内部告発者、ダニエル・エルズバーグ
(2023年1月22日)

ダニエル・エルズバーグです。民主主義、共和制を掲げる米政府の礎石の一つが憲法修正第1条です。この条文は、議会や州によって言論や報道の自由、宗教、集会の自由を制限するいかなる法律も禁じており、ほとんどの国が制定している英国のような公務機密法の成立を阻みました。
他のほとんどの国には、憲法修正第1条によって報道が自由として保護されると明記した法律がありません。行政府が保護する情報の開示をすべて犯罪とする英国式の公務機密法では、国民や報道機関、議会、国会への情報開示でさえも犯罪とされ、懲役刑の対象となります。

米国には憲法修正第1条のおかげで、このような法律は存在しません。実際、2000年に議会でうっかり可決されそうになりましたが、クリントン大統領によって、明らかに修正第1条に違反するとして拒否権が発動されたのです。

その際、クリントン大統領はその意見の中で、半世紀前のペンタゴン・ペーパーズ裁判における意見を引用しました。ペンタゴン・ペーパーズ事件とは、当時私が政府の請負業者として所持を認められていた情報を公開したことに端を発します。それはベトナムにおける米国の意思決定の経緯に関する、7000ページにも及ぶ最高機密文書でした。4人の大統領によって嘘が繰り返され、事実上、憲法や条約に違反し、とくに戦争の費用について議会を欺いていたことが明らかになりました。私は115年の禁固刑に直面しましたが、それは米国にない公務機密法に違反したからではありません。

これはニクソン大統領による試みで、スパイ活動法を利用したものです。スパイ活動法は、とくに戦時中、外国政府にひそかに情報を提供する米国のスパイを対象としたものでした。ニクソン氏のように使われたことはありませんでした。私の場合、公務機密法の代わりに、一般への情報公開を理由に、私の意図を示すことなく、単に公開は違反としたのです。

これは私に対する政府の犯罪性を理由に却下されました。現在〔内部告発サイト、ウィキリークス創設者〕ジュリアン・アサンジ氏が直面しているように、英国から米国に身柄を引き渡させようとする試みの根拠としてスパイ活動法を用いることが合憲かどうか、最高裁の判断は一度も出ていません。

何十件もあったのに、判断は出ていないのです。私の事件以来、スパイ活動法はまるで公務機密法のように使われ、事実上、政府が国民に知られたくない情報、それも膨大な量の情報を非公開にするために頼る代物となっています。

しかしアサンジ氏が起訴されるまで、スパイ活動法は、私のように情報を持っていて、それを公開した情報源以外には、公務機密法代わりに使われたことはありませんでした。

アサンジ氏のようなジャーナリストに対して使われたことはなかったのです。もちろんこのような情報公開やリークには、何らかの形でメディアが関与しており、多くの人が関わっています。しかしこれまで一度も起訴されたことはありませんでした。

実は、ジャーナリストや報道機関の行為を議会が犯罪とすることを認めない憲法修正第1条の規定にあからさまに違反して、ジャーナリストに対してスパイ活動法を使おうとするならば、憲法修正第1条は事実上なくなってしまうのです。

米国民が初めて手にしたのが憲法修正第1条だといわれます。我々は独立戦争を戦い、憲法を制定しました。だから憲法修正第1条があるのです。アサンジ氏がいる英国にはありません。英国には公務機密法があり、米国にはありません。

もし米国に公務機密法ができたら、独立戦争の大きな成果をあきらめることになります。つまり、もはや共和国でも民主国家でもないということです。米国は正式に君主国家や帝国となります。あらゆる帝国が必要とするのは、帝国の地位保全に必要な暴力行為を隠蔽するための秘密保持です。それまでの政府とは様変わりになります。

事実、スパイ活動法は英国の公務機密法よりさらに広範囲であり、だからこそ議会、つまり秘密を守りたい議員らは、正式な公務機密法を通すことを諦めたのです。

スパイ活動法が好まれるのは、 この法律の文言のためです。これまでのところ、アサンジ氏まではジャーナリストに対して使われていないし、ジャーナリスト以外に、単に情報を受け取ったり、情報を所管官庁に渡すことなく所有・管理した者に対しても使われていません。しかしそれらにはスパイ活動法の文言が適用されるのです。

この問題に挑戦するために、私は1年前、1958年の台湾海峡危機に関する最高機密文書を公開しました。かなり昔の話ですが、米国は中国大陸から台湾を守るために、核兵器を使用する寸前まで追い込まれました。これは今年、私たちが直面する重要な問題です。

私は長年、所管官庁に情報を渡すことを拒んできた者として、挑戦しました。スパイ活動法の文言が憲法修正第1条を支配し、無効とするのかどうかを初めて法廷で問うたのです。

さらに今年、アサンジ氏の身柄引き渡しに関連して、自分が2010年からずっと、アサンジ氏と同じように起訴されていた事実も明らかにしました。なぜならアサンジ氏が新聞に公開した情報を、私はアサンジ氏が公開する前に持っていたからです。アサンジ氏は、マスコミ向けの予備として、事前に私にそれを伝えてきたのです。

スパイ活動法の文言にそのまま従えば、情報を所有し、権限のある人物に開示せず、情報を保持した者として、私だけでなく、情報を受け取り公表した新聞社(ニューヨーク・タイムズ、ガーディアン、エルパイス、ルモンド)や、実のところ、その世界中の読者すべてが対象となります。

私は事実上、アサンジ氏と同様、必要であれば最高裁まで行ってスパイ活動法の検証に立ち合い、共和国としての地位を回復する用意があります。

私はバイデン大統領に対し、アサンジ氏らとともに私を起訴するか、同氏を引き渡そうとする憲法違反の試みをやめるか(私は引き渡される必要はありませんが)、私たちのどちらかを法廷で起訴するか、いずれかを求めます。大統領が共和国および民主国家としての地位を回復するには、それしかありません。

(次を全訳)
Ellsberg: Losing 1st Amendment Reverses War of Independence [LINK]

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