2022-12-29

ウクライナ危機と安全保障のジレンマ

反戦団体「コードピンク」共同設立者、メディア・ベンジャミン
ジャーナリスト、ニコラス・デービス
(2022年12月28日)

2022年12月27日、ロシアとウクライナの双方が、ウクライナでの戦争を終わらせるための呼びかけを行ったが、どちらも相手が拒否すると承知のうえで、交渉の余地がない条件を掲げている。

ウクライナのクレバ外相は、来年2月にグテレス国連事務総長を議長とする「和平サミット」を提案したが、その前提として、ロシアはまず国際法廷で戦争犯罪の訴追を受けなければならないとしている。一方、ロシアのラブロフ外相は、ウクライナがロシアの和平条件を受け入れなければ、「この問題はロシア軍が決定する」と冷ややかな最後通牒を発した。

しかし、もしこの紛争と解決策を理解する方法があるとしたら、それはすべての立場の意見を包含し、戦争を煽って激化させるだけの一方的な物語と提案を超えることができるとしたらどうだろうか。ウクライナの危機は、実は国際関係論の研究者が「安全保障のジレンマ」と呼ぶ典型的なケースであり、これによってより客観的な見方ができるようになる。

安全保障のジレンマとは、自国を守るために各国がとった行動が、相手国にとっては脅威と映るような状況のことである。攻撃用と防衛用の武器や兵力は区別されないことが多いので、一方の防衛力の増強は、他方の攻撃力の増強に見えやすい。互いに相手の行動に反応するため、結果として軍備の増強と拡大の連鎖に陥るが、双方とも自らの行動は防衛的であると主張し、そう信じてさえいるかもしれない。

ウクライナの場合、これはロシアとウクライナの国・地域政府との間で、またロシアと米国・NATO(北大西洋条約機構)との間で、地政学的により大きな規模で起こっている。

安全保障のジレンマの本質は、当事者間の信頼関係の欠如にある。米ソ冷戦時代、キューバ・ミサイル危機を契機に、深い不信感が残るなかで、軍備管理条約や 安全保障措置の交渉に着手し、事態の悪化を抑制することが求められた。相手が世界を破滅させるつもりでいるわけではないことを認識し、そうならないための交渉や保障措置に必要な最低限の土台を提供したのである。

冷戦終結後、双方は核兵器の大幅な削減に協力したが、米国は相次ぐ軍備管理条約からの脱退、NATOを東欧に拡大しないとの約束違反、国連憲章の「武力による威嚇または武力の行使」の禁止に直接違反する軍事力の行使に踏み切った。米国の指導者たちは、テロリズムと核・化学・生物兵器の存在が結びついたことで、「先制攻撃」を行う新しい権利が与えられたと主張したが、国連も他のいかなる国もそれに同意したことはない。

イラクやアフガニスタンなどにおける米国の侵略は、世界中の人々、さらには多くの米国人にとっても警戒すべきものであり、冷戦後の米国の新たな軍国主義にロシアの指導者が特に懸念を抱いたのも無理はないだろう。NATOが東欧諸国をどんどん取り込んでいくにつれて、古典的な安全保障のジレンマが生まれ始めた。

2000年に当選したプーチン大統領は、国際的な場を利用してNATOの拡大と米国の戦争行為に異議を唱え始め、NATOに加盟を要請された国だけでなく、欧州のすべての国の安全を確保するための新しい外交が必要であることを主張し始めた。

東欧の旧共産圏諸国は、ロシアの侵略に対する防衛的な懸念からNATOに加盟したが、これは、国境付近に集まる野心的で攻撃的な軍事同盟(NATO)に対するロシアの安全保障上の懸念を悪化させ、とくに米国とNATOがその懸念に対処しようとしないことから、その懸念はさらに大きくなった。

このような状況の中で、NATOの拡大に関する約束違反、中東やその他の地域における米国の一連の侵略、ポーランドとルーマニアにある米国のミサイル防衛砲台はロシアではなくイランから欧州を守るためだという不合理な主張が、ロシアに警戒の念を抱かせることになった。

米国が核軍備管理条約から離脱し、核先制攻撃政策を変更しようとしないことから、米国の新世代の核兵器は、米国がロシアに対する核先制攻撃能力を持つように設計されているのではないかという懸念がさらに高まった。

他方、ジョージアにおけるロシアの飛び地防衛のための軍事行動や同盟国アサド政権を守るためのシリアへの介入など、ロシアが世界の舞台で自己主張を強めていることは、他の旧ソ連邦諸国やNATO新加盟国を含む同盟国の安全保障上の懸念を高めている。ロシアは次にどこに介入してくるのだろうか。

米国がロシアの安全保障上の懸念に外交的に対処しようとしないため、それぞれが安全保障上のジレンマを悪化させる行動を取った。米国は2014年にウクライナのヤヌコビッチ大統領を暴力で倒し、クリミアとドンバスでクーデター後の政府に対する反乱を引き起こした。ロシアはクリミアを併合し、ドネツクとルハンスクの分離「人民共和国」を支援することでこれに対抗した。

このような緊張の高まりのなかで、「安全保障のジレンマ」モデルが予測するように、たとえすべての国が善意と防衛的配慮から行動していたとしても、有効な外交手段がない限り、互いの動機を最悪のものと仮定して危機はさらに制御不能な状態に陥った。

もちろん、安全保障のジレンマの核心は相互不信にあるため、当事者のいずれかが不誠実に行動しているとみなされれば、状況はさらに複雑になる。ドイツのメルケル前首相は最近、欧米の指導者は2015年のミンスク2協定の条件をウクライナに遵守させるつもりはなく、ウクライナの軍事力増強のための時間稼ぎとして協定に合意しただけであったと認めた。

ミンスク2和平合意の決裂と、米国、NATO、ロシアという大きな地政学的対立のなかで続く外交的行き詰まりは、関係を深い危機に陥れ、ロシアのウクライナ侵攻につながった。このような安全保障上のジレンマがあることを各関係者は認識していたはずだが、危機を解決するために必要な外交的行動をとることができなかった。

平和的・外交的な代替案は、当事者がそれを追求することを選べばつねに利用可能だったが、そうしなかった。だからといって、すべての当事者が意図的に平和よりも戦争を選んだというのだろうか。彼らは皆、それを否定するだろう。

しかし、毎日絶え間なく続く殺戮、何百万人もの市民の悲惨で悪化した状況、NATOとロシアの全面戦争という想像を絶する危険にもかかわらず、すべての当事者は現在、紛争を長引かせることに利点を見出しているようである。いずれの側も、自分たちは勝てる、あるいは勝たなければならないと確信しており、そのため、あらゆる影響と制御不能に陥る危険性を伴いながら、戦争を激化させ続けている。

バイデン大統領は、米国外交の新時代を約束して就任したが、かえって米国と世界を第三次世界大戦の瀬戸際に導いてしまった。

このような安全保障のジレンマに対する唯一の解決策は、殺戮を止めるための停戦と平和協定であることは明らかだ。1962年のキューバ・ミサイル危機から数十年の間に米ソ間で行われた外交は、1963年の部分的核実験禁止条約とその後の兵器管理条約につながった。元国連職員のアルフレッド・デ・ザヤス氏も、クリミア、ドネツク、ルハンスクの人々の意思を決定するために、国連が管理する住民投票を呼びかけている。

平和的共存への道に向けた交渉は、敵対者の行為や立場を是認するものではない。私たちは今日、ウクライナで絶対主義の代替案を目撃している。砲弾の衝突、負傷者の叫び、死臭から何千キロも離れた(アメリカ)帝国の首都で、スマートスーツと軍服を着た人々が管理・指揮し、実際に行っている容赦ない、際限のない大量殺戮に道徳的高みなどない。

和平交渉の提案が単なる広報活動以上のものになるには、すべての側の安全保障上のニーズに対する理解と、そうしたニーズが満たされ、根本的な対立のすべてに対処できるよう妥協する意志にしっかりと根ざしたものでなければならない。

(次を全訳)
The Ukraine Crisis Is a Classic 'Security Dilemma' - Antiwar.com Original [LINK]

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