2022-12-16

聖戦が悪夢になるとき

ケイトー研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2022年12月13日)

2022年秋にウクライナがロシア軍に対して驚くほど効果的な反攻を行ったことから、西側諸国の政府関係者やメディア関係者の間では、この戦争でウクライナが全面的に勝利した場合のロシアの対応について注目が高まっている。しかし米国と欧州の同盟国では、軍事的な運命が変わり、北大西洋条約機構(NATO)の代理人〔=ウクライナ〕が決定的な敗北に直面した場合、どのように対応するのかという議論はあまり行われていない。だが深刻な政策的失敗を避けるには、そうした議論が欠かせない。

欧米の外交専門家は、ウクライナでの軍事的事業が破綻した場合にロシアが取るだろう対応について、意見が分かれている。現実主義者たちは、プーチン大統領がロシアの取り組みを大幅に拡大させるのではないかと懸念している。その懸念は当然である。実際、2022年9月にプーチンが指示した部分的な国家総動員や、ウクライナの送電網などインフラへのミサイル攻撃の強化など、すでに拡大路線がとられている。心配するアナリストの中には、ロシアがウクライナで決定的な敗北を喫した場合、追い詰められたプーチンは屈辱的な破滅を避けるために戦術核兵器を使用する可能性さえあると警告する者もいる。バイデン大統領でさえ、その危険性の存在を指摘している。

しかし、よりタカ派的な人々は、プーチンはハッタリをかましていると主張し、ウクライナの反攻は輝かしい全面勝利の前哨戦にすぎないと称揚している。NATOの軍事力がロシアの戦力強化を阻むというのが、その暗黙の前提である。それどころか、ロシアという熊は、クリミアを含むウクライナの全占領地をウクライナの支配下に戻す外交解決を受け入れ、ずんぐりとした尻尾を巻いてはい出すだろうと考えているようだ。ジャーナリスト、アン・アップルバウムのようなタカ派は、最初からそのような性格の和解が唯一受け入れられる結果だと主張してきたのである。

ウクライナでロシアが敗北した場合に起こりうる結果についての外交政策エリートのバラ色のシナリオは心配である。しかし、ウクライナの将来の運命に関する過度の楽観論も同様に気がかりだ。現実には、プーチンがウクライナ軍の粘り強さ(およびNATOのウクライナへの軍事援助の程度と効果)を明らかに過小評価している一方で、ロシアは依然としてウクライナのインフラを荒廃させながら、ゆっくりと領土目標を達成しつつある。

ウクライナとその西側支援者にとってきわめて心配なのは、軍事的犠牲の度合いである。ミリー米統合参謀本部議長が2022年11月初めに発表した評価では、開戦以来、ロシア軍の死傷者は10万人以上に上ると結論づけている。米国の報道機関は、ミリーの報告書に関する見出しで、この数字を強調した。それよりも注目されなかったのは、ウクライナ軍も10万人以上の死傷者を出していると認めたことだ。ロシアの軍備はウクライナよりはるかに大きく、人口もウクライナの3倍以上あるため、この点は重要だった。つまり、ロシアはウクライナよりも容易に、そして長く、このような悲惨な損失を吸収することができる。戦争が長引き、人間の肉挽き器と化すと、ウクライナの運命は明るくなるどころか、しぼんでいく。

バイデン政権はこのような結果について皮肉るかもしれない。というのも、米政権がウクライナをロシアに対する軍事的代理人として利用する際の手本となったのは、1980年代にアフガニスタンのムジャヒディン(イスラム聖戦士)を使ってソ連の占領軍に血を流させたことだからである。この政策は、アフガンの人々にさまざまな点で大きな犠牲を払わせながらも、最終的には成功した。しかし他でも指摘したように、ロシアにとってウクライナは、アフガンよりもはるかに重要な利害関係国である。したがって、ロシアがウクライナからの屈辱的な撤退を受け入れる可能性はきわめて低い。

米政府幹部が「ウクライナを代理として使うのはその戦略が有効だと証明されたときだけ」と冷笑する現実主義者だとしても、ウクライナには外交政策エリートや報道機関の中に本物の崇拝者が大勢いる。ウクライナのゼレンスキー大統領をチャーチル元英首相のような高貴な人物として、ウクライナを悪質な侵略者に抵抗する勇敢な自由民主主義国家として描くインチキが広まっているため、たとえウクライナの運命が暗くなったとしても、米政府にとって代理人を見捨てるのは困難だ。米政府とその同盟国は繰り返し、ウクライナは民主主義と独裁主義の存亡をかけた世界的な戦いの最前線にあると主張してきたから、その姿勢を崩すことは難しいだろう。

もしロシアが差し迫った冬期攻撃、あるいはそれ以降の攻撃でウクライナ軍を追い詰めた場合、バイデン政権には、ウクライナに対する米国の支援を減らすのではなく、むしろ強化を求める大きな圧力がかかるという、非常に現実的なリスクが存在する。実際、この戦争にNATO軍が直接参加することを求める声は、ほぼ間違いなく高まるだろう。事態の拡大は、ウクライナ上空に飛行禁止区域を設定する、あるいは同国に米軍を配備するという形をとるかもしれない。

このような劇的な動きに伴うリスクは明らかであり、恐ろしいことである。しかし、この戦争をロシアの侵略や独裁政治の世界的脅威に対する聖戦として受け入れてきた有力者たちは、そのような考えにはとらわれないかもしれない。米国の外交政策体制には、失敗した事業を喜んで放棄した良い実績がない。ベトナムにいる米政府の傀儡が勝てないと明らかになった後も、何年もベトナム戦争に執着した。最近では、アフガンにおける米国の政策の破綻を20年近くもかたくなに認めようとしなかった。

それと同じ精神構造の人々が、ウクライナを活力ある民主主義国家であり、重要な同盟国であるかのように見せるためにあらゆる努力を尽くした後に、同国を見捨てるとは想像しがたい。実際、下院の進歩的議員連盟が戦争を終わらせるために外交を重視するよう求めた控えめな呼びかけ(すぐに撤回された)に対し、そうした方面から敵意が津波となって押し寄せたことは、ウクライナに対する狂信的な支持の大きさを示している。米政府の関与を強化するよう求める声は、米国民に過大なリスクがあるにもかかわらず、外交政策エリートによって受け入れられる可能性が高い。自国がこれ以上ウクライナ紛争に巻き込まれるのを防ぎたい米国人は、そのような試みをはねつける覚悟を持たねばならない。

(次を全訳)
How Will the Blob React if Ukraine Faces Defeat? - Antiwar.com Original [LINK]

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