2022-11-26

産業革命は奴隷制のおかげ?

研究者、リプトン・マシューズ
(2022年9月30日)

大西洋横断の奴隷貿易と英国の産業発展との関連は、公的な議論において繰り返し取り上げられるテーマである。奴隷貿易の利益によって、奴隷制度がある種の産業を豊かにしたので、英国はアフリカ人の子孫に補償する必要があるという思い込みが広まっているのである。たしかに奴隷貿易は利益を生んだが、経済への貢献はわずかなものであった。産業革命を推進したのは、奴隷貿易ではなく、技術革新であった。

奴隷貿易の収益性を検証する研究は、英国の人的資本や制度革新が奴隷貿易の存続に及ぼした影響について説明できていない。奴隷貿易は歴史上どこでも行われてきたが、非西洋人がどのように人的資本を投入して奴隷貿易の実行可能性を高めたかについては、あまり知られていない。もし人的資本や制度が活用されなかったら、大西洋横断貿易は英国や欧州の同業者にわずかな利益しかもたらさなかっただろう。

すべての地域が世界規模の貿易を効率的に行うことができると考えるのは、経済学者の間違いである。18世紀以前の欧州では、海運はすでに質の高い労働力を使用するハイテク産業であった。海事労働者は人的資本が高いことで知られており、とくに英国人は優秀であった。欧州は高度な船舶を建造するだけでなく、船員の質も相対的に高かった。

スティーブン・ベーレント氏は、〔英港湾都市〕リバプールが最終的に英国の奴隷貿易で優位に立つためには、人的資本が重要な要素であったと論じている。経験豊富な人材がいれば、商人たちはアフリカでの事業を組織し、市場の選択肢を広げることが容易になったのである。人的資本の不足は、奴隷貿易の生産性を著しく低下させる可能性がある。たとえば、ロンドンで訓練を受けた人材が不足していたため、アフリカでの貿易量は年間15〜25航海に制限されていた。

奴隷貿易の成功は、人的資本と組織と表裏一体であった。アフリカ人とアラブ人は何世紀にもわたって奴隷貿易を行ってきたが、欧州人と異なり、競争力を無視できない水準以上に高めることができる正規の構造を構築することができなかった。オランダ東インド会社、オランダ西インド会社、王立アフリカ会社などの組織は、欧州の貿易効率化を支援するために設立された。欧州人は搾取のビジネスに経済的な手法を適用し、英国は最も成功した。

オランダ、デンマーク、フランスの奴隷貿易に関する文献によると、これらの国の商人たちは奴隷貿易に関連する問題を最小限に抑える能力が低かったことがうかがえる。フランスは、最も近い競争相手である英国と異なり、17世紀から18世紀にかけて起業や銀行業務の近代化を行わず、その結果、金融部門の革新が進まず、産業の拡大が妨げられた。しかし、英国は奴隷貿易の業績を上げるためにいくつかの戦略を追求した。

ニコラス・ラドバーン氏は、英国の奴隷貿易が成功したのは「ボトム手形」という信用供与の仕組みのおかげだと考えている。これは「1750年代にリバプールの商人が初めて導入したもので、商人は捕虜を引き渡す船(ボトム)で米国奴隷売買の代金として、農産物や農園主自身の債券の代わりに、この手形を受け取ったのである。これらの手形は、英国の銀行家が引き受け、保証したもので、船長と農園主や仲買人との間のみだったそれまでの信用協定とは異なるものだった」

これらの手形は、家族や親戚のつながりに依存した個人的なネットワークを最小限に抑えることで、近代的な金融機関の出現につながる幅広い協力関係を育んだ。ラドバーン氏は、ロビン・ピアソン氏とデビッド・リチャードソン氏の研究を引用しながら、このような手形の使用が、フランスと英国の業績の差を説明するものだと主張する。

ピアソン氏とリチャードソン氏によれば、ボトム手形は1750〜1807年に(英奴隷貿易の)前例のない拡大を促し、1730年代に貿易を阻害した植民地債務保証の落とし穴から英国の奴隷商人が逃れることを可能にした。それに比べてフランスの奴隷商人は、18世紀を通じて「三角貿易」という送金方法を採用し、奴隷商人の船長は売り上げの一部を熱帯産品として持ち帰り、残りは直接農園主に信用供与するという方法であった。

保険もまた、英国の奴隷貿易を活性化させる重要な仕組みの一つだった。船舶や人間の荷物に保険をかけることで、損失が生じた場合のリスクを軽減し、奴隷貿易を奨励したのである。英国の奴隷貿易は、人身売買を可能にする仕組みを取り入れることで利益を得ていた。奴隷貿易の議論は感情に訴えるが、それは商業活動でもあり、ビジネスにおいては、より組織化され、より賢い人々がライバルに勝ることは明らかである。

たしかに奴隷貿易はひどいものだったが、論理で感情を抑えなければならない。この問題を分析すると、奴隷貿易が利益を生んだのは、英国と欧州の同業者の人的資本と制度的優位性によるものであることが明らかになる。奴隷貿易は欧州に特有のものではなかったが、欧州の人的資本のおかげで比較的成功した。さらに、もし人々が過去の残虐行為に対して謝罪を求めるのであれば、アフリカ人やアラブ人が奴隷制や奴隷貿易に参加したことに対しても償いを求めなければならない。

欧州の成功は奴隷貿易や植民地主義のような搾取活動に由来すると主張し、自らを慰める人もいるかもしれないが、じつは欧州の繁栄は、人的資本と欧州の制度に負うところが大きいのである。

(次を全訳)
What Drove the Industrial Revolution in Britain? It Wasn't Slavery | Mises Wire [LINK]

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