2022-12-02

国連とグレート・リセットの起源

経済学者、アントニー・ミューラー
(2020年11月18日)

今から約2400年前、ギリシャの哲学者プラトンは、国家や社会を緻密な計画に基づいて建設することを考え出した。プラトンは「賢者」(哲学者)を政府の舵取り役とすることを望んだが、そのような国家には人間の変革が必要であることも明言した。現代では、全能の国家を推進する人々は、プラトンの哲学者を専門家に置き換え、優生学によって新しい人間を作り出そうとしている。国連とその下部組織は、「2030アジェンダ」と「グレート・リセット」というプロジェクトで現在の段階に至っているこの事業において、きわめて重要な役割を担っている。

世界政府を目指す闘い


グレート・リセットは、どこからともなくやってきたわけではない。1913年から1921年まで米大統領を務めたウッドロウ・ウィルソンの政権が、政府機能を持つ国際機関の設立を目指したのが最初である。ウィルソンは、大統領の最高顧問であり親友でもあったマンデル・ハウス大佐の発案で、第一次世界大戦後の世界フォーラムを立ち上げようとした。しかし国際連盟への参加計画は失敗に終わり、国際主義や新しい世界秩序の確立に向けた動きは、「狂乱の1920年代」の間に後退していった。

しかし社会を組織のように管理しようという新しい動きが、世界恐慌の時代に現れた。フランクリン・ルーズベルトはこの危機をチャンスとばかりに、「ニューディール政策」を打ち出し、この政策を推し進めた。ルーズベルトは、第二次世界大戦に伴う行政特権にとくに関心があった。新たな国際連盟(後に国際連合と命名)の設立に向けた準備を進めたとき、抵抗勢力はほとんどなかった。

1942年1月、スターリン、チャーチル、ルーズベルトの指導のもと、26カ国が国際連合機構(UNO)設立に合意し、1945年10月24日に発足した。国連とその支部である世界銀行グループや世界保健機関(WHO)は、設立時に発表された目標を遵守するために、世界の国々に準備をさせてきた。

しかし、「国際の平和及び安全の促進」「諸国間の友好関係の発展」「社会の進歩、生活水準の向上、人権の尊重のための活動」という曖昧な宣言には、自由と自由市場の促進ではなく、文化や科学の組織を通じて介入と管理を強化する、行政権を持つ世界政府の設立という意図が見え隠れする。このことは、1945年の国連教育科学文化機関(ユネスコ)の設立で明らかになった。

優生学


1945年にユネスコが設立されると、英国の進化生物学者で優生学者、そしてグローバリストと公言するジュリアン・ハクスリー(『すばらしい新世界』の著者オルダス・ハクスリーの弟)が初代事務局長に就任した。

ハクスリーは組織の発足に際し、「グローバルな規模における科学的な世界人文主義」を呼びかけ、人間の進化を「望ましい」目的のために操作するよう求めた。弁証法的唯物論を「進化論哲学の最初の急進的試み」とし、社会を変えるためのマルクス主義の手法は、不可欠な「生物学的要素」を欠いているため、失敗に終わると嘆いた。

このような考えを持つジュリアン・ハクスリーには、立派な仲間がいた。19世紀後半から、優生学によって人類の遺伝的向上を求める声は、多くの著名な信奉者を獲得してきた。たとえば、経済学者ジョン・メイナード・ケインズは、優生学と人口抑制の推進を、最も重要な社会問題の一つであり、重要な研究分野であると位置づけていた。

ケインズだけではなかった。人類をよりよくするための品種改良を提唱した人々のリストは非常に大きく、印象的である。この「非自由主義的な改革者」には、作家H・G・ウェルズやジョージ・バーナード・ショー、米大統領セオドア・ルーズベルト、英首相ウィンストン・チャーチル、経済学者アーヴィング・フィッシャー、家族計画の先駆者マーガレット・サンガー、ビル・ゲイツ(マイクロソフト共同創業者でビル&メリンダ・ゲイツ財団代表)の父、ビル・ゲイツ1世らが名を連ねている。

ジュリアン・ハクスリーは、ユネスコ設立時の論文で、この機関の目標と方法についてきわめて具体的なことを述べている。人類の望ましい「進化的進歩」を達成するためには、まず「世界政治的統一の究極の必要性を強調し、完全な主権を別々の国から世界組織に移すことの意味を、すべての国民によく理解させる」ことが必要だという。

さらに、この機関は量に対する質の重要性のバランスを考慮しなければならない。つまり、あらゆる人間組織とあらゆる種類の生物にとって最適なサイズの範囲があることを考慮に入れなければならないのである。国連の教育・科学・文化組織は「世界の芸術文化の多様な統一と、科学知識の単一の蓄積の促進」に特別の注意を払うべきだという。

ハクスリーは、人間の多様性は万人のためにあるのではないことを明らかにしている。弱者、愚者、道徳的欠陥者......のための多様性は悪であるとしかいいようがなく、「人口のかなりの割合が高等教育から利益を得ることができない」し、「若い男性のかなりの割合が」「身体的弱さや精神の不安定さ」に苦しみ、「これらの根拠は、しばしば遺伝に由来する」ので、これらのグループは人類の進歩の努力から排除しなければならない。

ハクスリーは論文の中で、執筆当時、「文明の間接的効果」は、むしろ「優生的でなく劣生的」であり、「いずれにせよ、人間という種にすでに存在する、遺伝性の愚かさ、身体の弱さ、精神の不安定、病気になりやすいという重荷は、真の進歩を達成するには大きすぎることがわかるだろう」と診断している。なぜなら「すでに指摘したように、それほど遠くない将来、人間の平均的な質を向上させるという問題が緊急に発生する可能性が高いからである。これは真に科学的な優生学の成果を適用することによってのみ達成できる」。

気候変動の脅威の利用


世界経済の変革に向けた次の決定的な一歩は、ローマクラブの最初の報告書によって踏み出された。1968年、ロックフェラーの地所であるイタリアのベラッジオでローマクラブが発足した。その最初の報告書が、1972年に『成長の限界』という題名で発表された。

ローマクラブの名誉会長アレクサンダー・キングと幹事バートランド・シュナイダー将軍は、ローマクラブ評議会報告書の中で、クラブのメンバーが新しい敵を見つけようとしたとき、人類に責任を負わせるべき最も都合のよいものとして、公害、地球温暖化、水不足、飢餓をあげ、これらの脅威を抑えるために人類自体を削減しなければならないという意味合いを込めている、と報告している。

1990年代以降、国連では「2021アジェンダ」「2030アジェンダ」と、グローバルな管理体制に向けたいくつかの包括的な取り組みが行われてきた。2030アジェンダは、2015年にすべての国連加盟国によって採択さ れた。17の持続可能な開発目標(SDGs)の達成を呼びかけ、地球規模の変革の青写真を打ち出した。そのキーワードは「持続可能な開発」であり、その重要な手段として人口抑制が含まれている。

地球を救うことは、環境政策の戦士たちのスローガンとなった。1970年代以降、地球温暖化という恐怖のシナリオは、政治的影響力を獲得し、やがて公論を支配するための便利な道具となった。この間、これらの反資本主義グループは、メディア、教育、司法制度において圧倒的な影響力を獲得し、政治の舞台で主役となってきた。

多くの国、とりわけ欧州では、いわゆる緑の党が政治システムの中できわめて重要な役割を果たしている。多くの議員は、社会と経済を高いエコロジー基準に適合させることを公然と要求しており、そのためには現在の体制を大幅に見直す必要がある。

1945年、ハクスリー は優生学的な人口減少プログラムをはっきりと提案するのは時期尚早だとしながらも、「優生学の問題が細心の注意を払って検討され、現在考え難いことが少なくとも考えうるように、国民の心に問題となっていることを知らせることが組織にとって重要であろう」と助言している。

ハクスリーの警告は、もはや必要ない。一方、国連の下部組織であるWHOなどは、もともと小さな組織であったにもかかわらず、世界各国の政府に対して命令できるほどの力を持つに至ったのである。WHOと国際通貨基金(IMF)は、新しい世界秩序を構築するための最高のコンビとなった。IMFの融資条件は、財政抑制から、WHOの決めたルールにどれだけ従うかに変わってきた。

1945年の論文でジュリアン・ハクスリーが指摘したように、「自由放任主義と資本主義経済システム」が「多くの醜悪さを生み出した」ので、経済的自由をなくすことが国連の仕事である。今こそ「単一の世界文化」の出現を目指すべきときである。そのためには、マスメディアと教育システムの明確な助けが必要である。

おわりに


国連とその下部組織の設立によって、優生学とトランスヒューマニズムの推進は大きな一歩を踏み出した。ローマクラブの活動とともに、現在進行中のグレート・リセットを開始する段階となった。パンデミックの宣告によって、政府が経済と社会を包括的に管理するという目標は、経済と社会の変革に向けてさらに一歩前進した。自由は新たな敵に直面している。専制政治は、専門家による統治と慈悲深い独裁者を装ってやってくる。新しい支配者たちは、神の摂理を理由に支配の権利を正当化するのではなく、今や推測される科学的証拠に基づいて、普遍的な健康と安全の名のもとに人々を支配する権利を主張しているのである。

(次を全訳)
The United Nations and the Origins of "The Great Reset" | Mises Wire [LINK]

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