2022-11-05

崩れ去る西側シナリオ

元インド外交官、メルクランガラ・バドラクマール
(2022年11月3日)

米バイデン政権は非常に無邪気にも、米軍がロシアに隣接するウクライナの国土に実際に進駐していると、世界の世論に「感づかせて」しまった。国防総省の無名の高官がAP通信とワシントン・ポスト紙にこのことを明らかにし、米政府は「軟着陸」した。

この高官は、米軍はウクライナが受け取った西側兵器について「適切に会計処理していることを確認するために、最近現地での検査を始めた」と巧妙な説明をした。これは国務省が先週発表した、「ウクライナに提供された武器が、ロシア軍やその代理人、その他過激派集団の手に渡らないようにするための、より広範な米国の取り組みの一部である」と主張した。

しかしバイデン大統領は事実上、いかなる状況下でもウクライナに「軍隊を駐留させない」という自らの約束を破っているのだ。ウクライナに遠征中の米国人の集団が、ロシア軍から砲撃を受ける危険性はつねにある。実際、米軍の派遣は、ウクライナの重要なインフラに対するロシアの激しいミサイル攻撃やドローン攻撃を背景にしている。

簡単に言えば、意図的であろうとなかろうと、米国は紛争激化のはしごを上っているのだ。これまで米国の介入は、ウクライナ軍司令部への軍事顧問の派遣、リアルタイムでの情報提供、ロシア軍に対する作戦の計画と実行、米国の傭兵による戦闘の許可などだった。数百億ドル相当の兵器の安定供給は別としてである。

質的な違いは、代理戦争が北大西洋条約機構(NATO)とロシアの間で熱い戦いになる可能性があることだ。ロシアのショイグ国防相が本日、ロシアとベラルーシの国防省合同会議で述べたところによれば、東中欧に駐留するNATO軍の数は2月以降、2.5倍になり、近い将来さらに増加する可能性がある。

ショイグ氏が強調したところによれば、ロシアは、西側諸国が同国の経済と軍事的潜在力を破壊し、独立した外交政策の追求を不可能にする協調戦略を追求していると十分理解している。

また、NATOの新戦略コンセプトが、「前方駐留による」ロシア封じ込めから、「東側における全面的な集団防衛体制」の構築を示唆していると指摘し、非地域加盟国がバルト諸国や東欧、中欧に兵力を展開し、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアに多国籍大隊戦術群を新たに編成していることを明らかにした。

最近のノルドストリーム・パイプラインに対する破壊行為や、クリミア半島セバストポリにあるロシア黒海艦隊の基地に対する10月29日のドローン攻撃について、ロシア側が英情報機関の関与を主張しているこのタイミングで、米政府がウクライナに米軍の存在を認めたのは偶然ではないだろう。

歴史的に見れば、米英の「特別な関係」にはグレーゾーンがある。両国関係の記録には、重要な瞬間に尻尾(英国)が犬(米国)を振り回す事例が数多くある。重要なのは、興味深いことに、セバストポリへの攻撃について、ロシアはウクライナよりも英秘密情報部(MI6)の工作員を指弾していることだ。

もともと米英の計算では、ロシアをウクライナで泥沼に陥らせ、「プーチンの戦争」に反対するロシア国内の反乱を扇動することだった。しかし、それは失敗した。米国の見方によれば、ロシアが部分動員した30万人以上の予備役をウクライナに派兵したのは、今後3〜4カ月で戦争を終わらせる大攻勢をかけるためである。

つまり、ウクライナに関する西側のシナリオを形成していた、嘘と欺瞞に満ちたプロパガンダが崩れ去ろうとしているのである。ウクライナでの敗北は、欧州だけでなく世界の舞台で超大国としての米国のイメージと信頼を失墜させ、大西洋同盟の指導力を弱め、NATOを解体させることさえありうる。

しかし奇妙なことに、この状況下でもロシアがウクライナに停戦交渉の再開を働きかけている事実を、米政府は見逃すことはできない。実際、11月1日に重要な進展があり、ウクライナはイスタンブールの共同調整センター(JCC。トルコ、ロシア、国連で構成)に対し、人道回廊と、農産物輸出に指定されたウクライナの港を今後、ロシアに対する軍事作戦に利用しないと書面で保証したのである。ウクライナの約束によれば、「海上人道回廊は、黒海イニシアチブ(国連が仲介した黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意)および関連するJCC規則に従ってのみ使用される」。

今にして思えば、バイデン政権はこの戦争について、西側の制裁の重みでロシア経済が崩壊し、同国の政権交代につながると予想したのが大間違いだったのだ。それどころか、国際通貨基金(IMF)でさえ、ロシア経済が安定したことを認めている。

ロシア経済は来年までに成長を取り戻すと予想されている。高インフレと不況に沈む西側経済との対照はあまりに明白で、世界の視聴者は見逃すまい。

米国とその同盟国が、ロシアを叩く制裁を使い果たしたことは言うまでもない。一方、ロシア指導部は、百年来の米国の世界支配に挑戦する多極化した世界秩序への移行を推し進めることで、結束を固めている。

この危機の根本的な原因は、資本主義体制そのものにある。我々は現在、第二次世界大戦で起こった世界の再分割以来、資本主義体制が経験した最も長く深い危機の影響下で苦しんでいる。帝国主義勢力は、第二次世界大戦前と同じように、危機を脱するために世界を再分割しようと再び戦争の準備を進めている。

大きな問題は、ロシアの対応がどうなるかである。ウクライナに米軍が駐留していることがワシントンで明らかになったが、ロシアが不意を突かれたわけではないことはほぼ確実である。ロシアが即座に反応する可能性はきわめて低い。

ウクライナによる「反攻」は頓挫した。領土を獲得することも、重要な突破口を開くこともできなかった。しかしウクライナ軍は何千人もの死傷者を出し、軍備の莫大な損失を被った。ロシアは優勢になり、それを自覚している。前線の至るところで、ロシア軍が着実に主導権を握っていることが明らかになりつつある。

米国もNATOの同盟国も、大陸戦争を戦える状態にはない。したがって、ウクライナの草原で米国製兵器の監査をしている米軍兵士が、トラブルを避け、心身をともに保つことができるかどうかに、すべてはかかっている。シリアでのように、米国防総省はロシアと「衝突回避」措置をとるかもしれない。

とはいえ、真面目な話、ロシアの立場からすれば、ウクライナ国内での米国製兵器の監査自体は悪いことではないかもしれない。現実の危機として、最近、欧州連合(EU)のジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表が使ったみごとな比喩を借りるなら、米国から供給された兵器が欧州に流れ込み、あの美しく手入れされた庭を(ウクライナや米国のように)ジャングルに変えてしまうかもしれないからである。

(次を全訳)
Who’s afraid of US troops in Ukraine? - Indian Punchline [LINK]

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