2022-11-03

制裁強化で北朝鮮の核開発は止まらない

ケイトー研究所シニアフェロー、ダグ・バンドウ
(2022年7月18日)

北朝鮮が核兵器を保有する以前から、韓国の政府関係者は米国の先制攻撃の提案に抵抗していた。韓国に対し通常兵器で報復が行われた場合でさえ、リスクが大きすぎるからだ。今日の北朝鮮ははるかに危険である。例えば、生物・化学兵器を含む大量破壊兵器による攻撃が数回行われただけでも、韓国、北東アジア、そして潜在的には米国の領土に甚大な被害をもたらすだろう。

もう一つのよく提案される万能薬は、経済制裁である。より多くの制裁。より厳しい制裁。制裁の強化。米国の歴代政権は、この伝説の一角獣を必死になって探してきた。オバマ政権は、中国とロシアの支持を得た後、最も実現に近づいたかもしれない。その後、国連は北朝鮮の輸出産業を標的にし、北朝鮮経済を大幅に減速させた。しかし、北朝鮮はそれでも屈しなかった。

金正恩委員長とトランプ大統領が初の米朝首脳会談に合意すると、中国は米朝の交渉から外れることを避けるため、方針を転換した。習近平国家主席は金正恩と仲睦まじい首脳会談を相次いで行い、以後、北の立場を事実上バックアップしてきた。

さらに、米国は中国・ロシアとの関係を急激に悪化させている。ウクライナの代理戦争に代表されるように、ロシアとの関係は冷戦時代並みに悪化している。米中関係もそれに劣らない。バイデン政権はトランプ政権後期に欠けていた対話を開始しようと試みたが、中国は米国の政策を推進するために何もする気にならないだろう。中国とロシアは、北朝鮮の核武装も不安定な北東アジアも望んでいないが、北朝鮮を米国に対する有効な武器とみなしている。

中国とロシアは、北朝鮮が今年これまでに行った31回のミサイル発射実験に対する国連の新たな制裁措置を拒否している。核実験が行われた場合、両者がどのような反応を示すかは定かではない。しかし、エネルギーや食糧の遮断など、北朝鮮の体制を脅かすような措置には同意しそうにない。そして、金王朝は非常に強いことが証明された。1990年代後半、金正恩の父親(金正日)は、少なくとも50万人が死亡した数年にわたる飢饉にもかかわらず、辛抱強く生き延びた。2年以上前、金正恩は新型コロナ感染症の蔓延を防ぐため自国を制裁し、孤立させた。かつて中国は、非核化支持と安定志向のバランスをつねに取っていた。しかし、今は米政府への明らかな敵意から、非核化支持は弱まっている。

では、どうすればいいのか。

英国王立防衛安全保障研究所のアーロン・アーノルド氏は「中国とロシアを制裁せよ」と言う。

アーノルド氏は、最も強力な潜在的敵対者である両国が米政府の要求を拒否するという、ありふれた、驚くには値しないことに憤慨している。国連安全保障理事会が最後に新たな制裁を課してから五年年近く、中露は北朝鮮に対する国際的な制裁を更新・修正するどんなにささやかな努力も妨げてきた。先月両国は、北朝鮮による挑発行為と相次ぐ弾道ミサイル発射実験を受け米国が提出した、制裁強化の決議案に拒否権を行使した。中国外務省の趙麗健報道官は、北朝鮮が再び核実験を行った場合、新たな制裁を求める意思はないことをほのめかした。

すべて事実である。しかし、たしかにこれは予想されたことだ。核保有を宣言していないイスラエルに対して、たとえ国連で承認されたとしても、米国が同様の制裁措置を取るとは誰も考えないだろう。米国は、このような措置は米国の(そして間違いなく米国の政治家の)政治的利益を損なうと考えるだろう。その際、国際法や国際的な義務に対する配慮は即座に消え失せるだろう。

それにもかかわらず、アーノルド氏の意見によれば、「西側諸国が本気で核不拡散の国際公約を守ろうとするならば、ロシアと中国にその責任を問わねばならない。ロシアと中国が北朝鮮の制裁逃れや収入源となる活動に目をつぶるなら、両国の国内機関に対する二次的制裁で対応すべきだ」という。

そうすれば、劇的なことになる。長々と饒舌に神妙に語ることを得意とする米政府高官を喜ばせることができるだろう。しかし、非核化を前進させることはできないだろう。

第一に、制裁は、政府が重要であると信じるものを放棄させるという点では、あまり実績がない。米国の歴代政権はスーダンを標的にしたが、スーダンが変わったのは国内の革命の後だった。トランプ政権はイラン、シリア、ベネズエラに「最大限の圧力」をかけ、これら政府のいずれをも降伏させることができなかった。中国、ロシア、キューバは、より軽い経済的な罰則を無視し、キューバへの制裁は六十年以上になる。北朝鮮は、制裁緩和を勝ち取るには完全な非核化が必要だと確信すると、米韓との対話を実質停止した。政治で譲歩を強いるために経済で強制力を行使しても、この程度の結果しか得られない。

第二に、制裁に制裁を重ねれば、その効果を弱め、国家の行動に影響を与える可能性を低下させる。現在のロシアは、米国の制裁が強化されても失うものは何もない。ロシア経済の大部分はすでに制裁下にあり、制裁を強化するという脅しは何の脅しにもならない。また、制裁緩和のための条件が増えれば増えるほど、その遵守の可能性は低くなる。

中国も標的にされることを避けたいと考えているが、近年、多数の個人や組織に対して類似の罰則が強化される事態に直面している。北朝鮮の場合、米国の要求に屈するくらいなら、一部の企業や銀行を犠牲にする可能性が高い。さらに、制裁が強化されれば、米国の経済的圧力に対する弱さを抑える戦略をとるための努力に拍車がかかるだろう。また、米国の経済的影響力の乱用により、ロシア、インド、その他のBRICS諸国、中東諸国、さらには欧州諸国もドル依存の引き下げに関心を抱いている。

第三に、米国は、ロシア・中国の両国とさまざまな問題を抱え、北朝鮮を優先させることは容易ではない。ロシアの場合、ウクライナとの戦争が米国にとって最も重要な問題である。ロシアは和平交渉の一環として、制裁解除を主張するかもしれない。そのような場合、米政府はリスクを冒してまで北朝鮮への制裁を継続することはないだろう。

中国は、さらに複雑な問題が絡み合っている。台湾や南シナ海に集中する領有権主張などの安全保障上の懸念、複雑な人権問題、貿易、知的財産権侵害、産業政策、サイバーセーフティなど多岐にわたる経済論争、一帯一路構想などの国際経済・外交活動、同盟国の政治体制に影響を及ぼす試みなどなど、さまざまな問題がある。米国はこれらすべてについて、思いどおりになるとは思っていない。実際、米国が中国に遵守を求めれば求めるほど、中国の抵抗は大きくなる可能性が高い。その中で北朝鮮はどのような位置づけにあるのだろうか。

残念ながら、北朝鮮問題に単純な答えはない。クジラに囲まれたエビのように、北朝鮮は当然のことながら、核兵器が生存のために重要であると考えている。北朝鮮の政権エリートたちが、核兵器が支配階級の存続に役立つと確信しているのは間違いない。となると、米国は別の戦略を試す必要がある。

北朝鮮への渡航制限の撤廃だ。北朝鮮のコロナ規制は残っているが、この一歩によって、米国の「敵意」に対する北朝鮮の日頃の不満に応えることができ、将来の米国訪問への道筋をつけることができるだろう。バイデン政権はまた、外交官関係の確立を提案すべきである。友人よりも敵と話すことが重要だ。とりわけ相手が核兵器を持っている場合は。

最も重要なのは、米国は金正恩委員長とトランプ大統領が物別れしたところまで戻る意志があることを示すことだ。米国の公式目標は非核化であることを繰り返すべきだが、北朝鮮の核開発を制限しながら制裁を解除し、段階的に進める意思があることを示すべきだ。部分的な進展でもあれば、地域と米国はより安全なものとなる。中国はこの取り組みを奨励するかもしれない。そうすれば、核に対する中国の恐怖心が薄れ、国境の安定が促進される。

制裁を支持する人たちは決してあきらめない。すべての失敗は、「少なすぎる」ことが原因だと説明される。つまり、十分な数の国、人、企業、製品、取引、活動に対して、十分な期間、十分な罰則を課さなかったことが原因なのだ。したがって、答えは簡単である。「もっとやれ!」。その果てしない繰り返しになる。キューバ、ベネズエラ、イラン、北朝鮮を見るがいい。

残念なことに、北朝鮮との交渉には時間切れが迫っている。北朝鮮問題はまもなく危機的状況に陥るかもしれない。ランド研究所とアサン研究所は昨年、「北朝鮮は2027年までに、二百個の核兵器と数十基の大陸間弾道ミサイル(ICBM)、核兵器を運搬するための数百基の戦域ミサイルを保有する可能性がある」と予測した。米国の都市を標的とすることができる北朝鮮の重大な核抑止力に直面した場合、米国の政策立案者はこれまでとはまったく異なる世界に身を置くことになる。

残念ながら、北朝鮮、中国、ロシア、あるいはその三カ国すべてに対して制裁を強化しても、状況は変わらない。米国は別のやり方を試す必要がある。今すぐだ。

(次より抄訳)
Expanding Sanctions Won't Halt North Korea's Nuclear Program - Antiwar.com Original [LINK]

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