2022-09-09

ピケティがめざす共産主義の復活

経済学者、マーク・ソーントン
(2022年8月11日)

『21世紀の資本』の著者トマ・ピケティの著書はすべて、経済学的にみてひどいものだ。マルクスの本が何億人もの人々、とくにマルクスとピケティが助けようと提案する低所得者層を破滅させたのと同様、すべてが政治経済にとって危険である。ピケティの新著『平等の簡潔な歴史』は簡潔だけに、これまでの著書の中で最も社会を破壊する恐れがある。

200年前まで、人類の95%以上が「極度の貧困」の中で暮らしていた。その割合は、1980年代末に世界人口の約3分の1まで低下し、現在は10%以下である。しかも人口が急速に増加するなかで、低下している。これは人類史上、最も重要な事実の一つだが、あまり知られていないようで、どのようにして実現したのかもピケティにはまったくわからない。

個人の権利、自由な市場、取引の自由は、経済成長の機会、最低限度以上の賃金、経済的平等の拡大を生み出した。資本主義は労働条件を改善し、富裕層や権力者を相対的に弱らせ、起業家階級(ブルジョア階級)の出現をもたらした。産業革命が経済の生産構造の中心を貴族から労働者へと転換させたことに、ほとんど疑いの余地はない。中世の権力者と農奴、あるいは20世紀の共産主義に比べれば、経済的にもその他の面でも、人々はより平等になったのだ。

ピケティはこうした事実を無視し、社会民主主義の考えと手を結ぶ。さまざまな投票制度や、財産制度に関する政治選択によって(平等という)目標を達成できるため、資本主義はもはや必要ないという。さらにピケティは、達成された平等は「不正に対する争いと反乱」によるものだと考えているが、明らかにそうではない。例えば、近代的な労働組合、社会主義的な政党、左翼の政治基盤は、急速な経済発展と平等普及の後に出現したのであって、それ以前には存在しなかった。

ピケティは教育や健康に関する統計で進歩を測り、それを福祉国家のおかげだと考える。教育や医療は、福祉国家が始まるずっと以前から、貴族以外の人々にも提供されていたにもかかわらず、このような主張をしているのだ。実際、資本主義以前には教育や医療の機会はほとんどなかったし、自由な市場経済への移行に伴い、どちらの指標も急速に向上した。

歴史上、経済の「平準化」が起こった大きな原因は、第一次世界大戦、スペイン風邪、世界恐慌、第二次世界大戦による死、離散、家族形成の減少などである。おびただしい数の若者が死んだり、貧困に陥ったりすると、その後の出生数が減少する。その結果、賃金水準が上昇し、所得分配が平準化される。資本主義の下では、実質賃金は上昇し、貧困は減少し、人々は豊かになり、経済的機会と平等は大規模な死と破壊なしに改善することが可能であり、実際そうなっている。

これに対し、ピケティは累進課税と福祉国家を真の救済とみなす。国家権力の「漸進的」増加をもたらす民主主義という形で、累進課税と福祉国家の強化を望む。マルクス主義による過去の経済的失敗、大量餓死、大量虐殺といった悪いイメージのない、完璧なマルクス主義国家を望んでいるのだ。

(次より抄訳)
Thomas Piketty Wants to Bring Back Communism in the Guise of Democratic Socialism | Mises Wire [LINK]

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