2022-07-28

ケインズは何を間違ったか

経済学者、ハンス・ヘルマン・ホッペ
(1992年)

経済学者ケインズにとって、資本主義は危機を意味した。ケインズはその理由として、大きく二つを挙げる。

第一の理由は、資本主義に伴う景気変動である。ケインズの主著『雇用、利子および貨幣の一般理論』によれば、景気変動は心理によって決定される現象だという。しかし、これは明らかに間違っている。

ある心理現象が他の心理現象に影響を及ぼすと考えることは可能だ。しかし、心理現象が現実の事物に直接影響を与えると考えることはできない。行動によってのみ、現実の出来事に影響を与えることができる。ケインズの心理学的な景気変動論は、現実の出来事がなぜ起こるのかを説明できない。

現実の世界では、人は行動しなければならず、希少な資源を価値ある目標に絶えず配分しなければならない。しかしケインズの考えとは異なり、人は勝手気ままに行動することはできない。なぜなら行動する際には、人間の心理にはまったく影響されない現実の欠乏に必ず制約されるからである。

ケインズによれば、資本主義が不安定であり、社会主義による解決が望ましい第二の理由は、資本主義に内在するという経済停滞の傾向である。現代産業社会では通常、消費によって生産が制限され、その逆ではないという。

経済停滞は消費不足によって起こるという。この消費不足の命題と組み合わされるのが、「実質所得が増加すればするほど、所得のより大きな割合が貯蓄される」という「基本的な心理法則」である。

もし消費が生産を制限するならば、そして、所得の増加とともに消費が減少するならば、所得の増加は消費の減少による自滅を意味するだろう。もしそうなら、消費の少ない裕福な社会ほど「停滞」に悩まされるし、どの社会でも経済停滞に最も貢献するのは、消費の少ない金持ちということになる(ただしこの理論では、そもそも個人や社会が他の個人や社会よりも豊かになれる理由を説明できないという「些細な」問題を除く!)。

そこでケインズは、停滞から抜け出す方法について提言する。「投資の社会化」(政府による公共投資の拡大)に加え、消費を刺激する方策、特に富裕層(消費性向の低い人々)から貧困層(消費性向の高い人々)への所得の再分配を行うべきだという。

永久に続くインフレはケインズの万能薬である。インフレは停滞を克服するのに役立ち、より進んだ社会では、より深刻な停滞の危機を克服する。いったん停滞が克服されれば、さらにインフレが進行し、一世代のうちに欠乏が解消されるという。

社会に存在する貨幣の量に変化がない場合、現金の需要が全般に高まれば、財の価格は下がる。しかし、だからどうしたというのだ。名目所得は減少するが、実質所得と、実質消費・投資比率は変わらない。人々はその過程を通じ、自分のほしいもの、つまり現金残高の実質価値の増加と、購買力の上昇を手に入れる。

これは経済の停滞ではない。ケインズは、貨幣需要の増加や生産経済の拡大によって起こる価格下落という完全に正常な現象に、「停滞」「不況」「有効需要不足の結果」といった悪い名前をつけ、インフレ政策の口実を見つけようとしているにすぎない。

これが20世紀で最も有名な「経済学者」ケインズである。ケインズは雇用、貨幣、利子に関する誤った理論から、紙幣でできた社会主義の楽園と資本主義について、途方もなく間違った理論を生み出した。

(次より抄訳)
The Misesian Case against Keynes | Mises Institute [LINK]

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