2022-07-15

「泥棒男爵」の神話はどのように生まれ、なぜ今なお続いているのか?

歴史家、バートン・フォルサム
(2018年9月21日)

1865年から1900年代初めまで、米国は政府を小さくすることで、起業家を間接的に奨励した。奴隷制度は廃止され、所得税も廃止された。連邦政府の支出は削減され、1800年代後半にはほぼ毎年、連邦予算は黒字となった。つまり連邦政府によって自由度が増し、起業家が活動しやすい安定した市場が形成されたのである。

1800年代後半、歴史家が「金ぴか時代」と呼ぶ時代に、蒸気船から大陸横断鉄道まで、連邦政府による補助金制度が導入されたが、失敗に終わった。経済発展の戦略として、自由市場が着目された。コーネリアス・ヴァンダービルト(海運と鉄道)、ジェームズ・ヒル(鉄道)、ジョン・ロックフェラー(石油)、チャールズ・シュワブ(鉄鋼)ら起業家が世界を席巻した。

多くの歴史家は長年にわたり、連邦政府の援助によって成功しようとした政治起業家と、補助金を避け、良い製品を安く作ろうとした市場起業家の区別をしてこなかった。その代わり、起業家の多くは「泥棒男爵」だったと説いてきた。それによれば、起業家は投資によって米国を豊かにしたのではなく、国民から金を巻き上げ、米国の政治・経済生活を腐敗させた。だから政府が経済に介入し、強欲な起業家から国を救う必要があったという。

米国の起業家を悪くとらえるきっかけとなったのが、『泥棒男爵』という本を書いた歴史家マシュー・ジョセフソン(1899〜1978)である。ユダヤ系銀行家の息子で、コロンビア大学を卒業後、米国で最も進歩的な歴史学者であり、社会主義に共鳴するチャールズ・ビアードに教室で刺激を受けた。

ジョセフソンは(大恐慌時の)1930 年代の資本主義体制を、1800 年代末の起業家にさかのぼって説明した。資本主義の下、鉄鋼、石油業などの浪費、強欲、腐敗が大恐慌を起こしたと読者に説明したのである。ジョセフソンによれば、「心に刻んだのは(マルクスの)『資本論』第一巻にある産業集中の理論で、それが私の本の下敷きになった」。

ジョセフソンは市場起業家と政治起業家の区別を見誤り、ひとくくりにしてしまった。しかし正直に、一部の市場起業家の業績に言及している。ジェームズ・ヒルは、「有能な管理者」であり、補助金をもらっていた競合他社よりも「はるかに効率的」だったと認めている。アンドリュー・カーネギー(鉄鋼)は「よく統合された、技術的に優れた工場」を持ち、ジョン・ロックフェラーは「偉大な革新者」で優れた「マーケティング手法」を持ち、「無比の効率と組織力」を発揮したと述べている。

ジョセフソンの怒りの矛先が向かったのは、ほとんどが政治起業家だ。北太平洋鉄道のヘンリー・ヴィラードは「成績が悪く、手数料が高い」ことから、「鉄道建設についてほとんど何も知らなかったようだ」と述べる。ユニオン・パシフィック鉄道とセントラル・パシフィック鉄道の経営者らは「無頓着に行動し、通常の建設費より70〜75%の浪費を招いた」。しかしジョセフソンは、政府がこれら鉄道会社に与えた補助金が、資材の過剰購入や安全でない場所での建設の誘因となったことに気づかない。

(次より抄訳)
How the Myth of the 'Robber Barons' Began—and Why It Persists - Foundation for Economic Education [LINK]

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