2022-05-20

ウクライナ戦争で誰が誰を読み違えたのか?

ヘンリー・キッシンジャーとジャック・ボーの発言

米空軍退役軍人、ロナルド・エンツワイラー
(2022年5月19日)

キッシンジャー元米国務長官は5月11日、フィナンシャル・タイムズ紙のインタビューで、ウクライナ戦争について初めて公に発言し、当事者間の敵対関係を世界全体に影響を及ぼす大惨事にまで発展させた誤算を明らかにした。その誤算とは、相手の「越えてはならない一線」を見極めなかったことにある。

キッシンジャーは、冷戦後のNATOの東方拡大がロシアへの危険な挑発になると予見し、早くから批判していた。それをウクライナについて論じたのが、2014年3月のワシントン・ポスト紙への寄稿だ。その洞察によれば、政策の試金石は始め方(意図)ではなく、終わり方(結果)にある。

無制限の「門戸開放」によるNATOの拡張政策は、(結果としてウクライナ戦争を引き起こしたことで)キッシンジャーの基準にみごとに落第している。それでもめげずに、NATOはフィンランドとスウェーデンの加盟により、誤りを繰り返そうとしている。

キッシンジャーによれば、プーチン露大統領はNATOが「エルベ川の東」に移動したことに不快と脅威を感じ、この地域全体がNATOに「吸収」されることを恐れた。この恐怖を引き金に、ウクライナで自衛措置として軍事行動を起こした。キッシンジャーはウクライナ侵攻をソ連復活の企てとは考えていない。

キッシンジャーは「ウクライナ戦争が終わった後、世界の地政学的状況は大きく変わるだろう。二つの敵対国(ロシアと中国)を一緒に追い込むような形で敵対姿勢をとるのは賢明ではないと思う」と述べる。しかし米欧はロシアに対する強硬な制裁や、中国に向けた東アジアでの軍拡を行なっている。

キッシンジャーによれば、「(戦争は)他国の敵意によって米国に強いられるかもしれない。しかし、米国自身の態度で戦争を発生させることは避けるべきだ」。この発言は、バイデン政権がイデオロギーを理由に外交方針を単純化し、危険な「我々対彼ら」の枠組みを作ったことを真っ向から否定する。

キッシンジャーが深く憂慮するように、「両陣営の武器は年々増殖し、その精巧さと殺傷力は増している。しかし、これらの兵器が使われたらどうなるかという議論は、国際的にはほとんど行われていない」。そして、「これは軽視されてきた問題」であり「外交と戦争に新しい文脈が必要」である。

キッシンジャーは2007年1月、ウォールストリート・ジャーナル紙に三人の政治家(ジョージ・シュルツ、ウィリアム・ペリー、サム・ナン)と共同で、核兵器のない世界を求める論説を寄稿している。この先見の明のある構想はもちろん、核兵器産業と相思相愛の関係にある米議会では採用されなかった。

(次より抄訳)
Who Misread Whom in Ukraine War Debacle? - Antiwar.com Original [LINK]

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