2020-11-15

渡瀬裕哉『税金下げろ、規制をなくせ』

インフレ税もやめさせよう


長らく続く日本経済の停滞を打破するために、何が必要か。経済学者や評論家の多くは、相変わらず政府の財政支出を求める。しかし本書の著者は違う。日本を救う方法は「減税と規制廃止しかない」と力強く言い切る。


著者が述べるように、所得に占める税金と社会保障費の比率を示す国民負担率は、1970年度には24.3%にすぎなかったのに、2020年度には44.6%と50年で約2倍に跳ね上がっている。とくに若者は重い税負担と社会保障負担に苦しむ。これこそ日本を覆う停滞感の真因だ。

規制も税金と同じく、多ければ多いほど、国民は不自由になって経済損失が生まれる。経済協力開発機構(OECD)によると、規制の少なさで日本は46カ国中、24位。中位のランクではあるが、上位には英国、デンマーク、スペイン、ドイツ、オランダ、スウェーデン、ノルウェーなどが並ぶ。著者が指摘するとおり、規制や税金が多い「大きな政府」と考えられがちな欧州諸国は、じつは規制が少ない「ビジネスフレンドリーな国」なのだ。

これらの事実を踏まえ、著者は減税と規制廃止を訴える。けれども、税金は一般国民や弱者を助けるために必要ではないのか。著者はこうした疑問を「はっきり言わせてもらいますが、日本では税金は余っています」と一蹴し、象徴としてダムのエピソードを紹介する。

最近、政府が治水対策のためにさまざまな種類のダムの水量管理を省庁横断で進めたところ、50年で5000億円かけて作った八ッ場ダムの50個分の貯水量を、既存のダムを活用することで確保できることがわかった。こんな調子では、いくら税金があっても足りないはずだ。

著者は「すべての増税に反対しなければいけません」と正しく指摘する。消費税を上げる代わりに法人税と所得税を下げようとしても、そうはならない。役所や政治家、その取り巻きの「利権をよこせ連合」は増税したくてたまらないからだ。

さて、すべての増税に反対という著者の主張を補うため、本書で触れられていない特殊な税金について注意を喚起しておこう。インフレ税だ。

インフレ税とは、中央銀行がお金の供給量を増やした結果、お金の価値が薄まることをいう。お金の価値が年2%薄まれば、2%の税金を取られたのと実質同じだ。

インフレとは物価上昇の意味だが、たとえ物価が横ばいでも、お金の量が増えた分、その価値は薄まる。もし中央銀行がお金の量を増やさなければ、物価は下がり、それだけ多くの商品・サービスを買えたはずだからだ。

目に見えにくいインフレ税は、目に見える普通の税金よりもたちが悪い。普通の税金と違い、国会で課税の条件が審議・承認されるわけでもない。そもそも税金と同じだと理解している人も少ない。

インフレ税をやめさせるには、中央銀行がお金の量を勝手に増やさないよう、一定のルールで縛らなければならない。そうなれば、今のように政府の発行する国債を日本銀行が無制限に買い取ることはできなくなる。遅ればせながら国債発行に歯止めがかかり、返済に充てる税金も相対的には減るだろう。

日銀という巨大な買い手を失って国債相場は急落し、国債を保有する銀行や保険会社は大きな損失を出し、預金者や保険契約者にも影響が及ぶだろう。それでもツケを将来に先延ばしするよりは、傷は浅くて済む。もちろん、破綻に瀕した金融機関を税金で救済などさせてはならない。

コロナ対策を名目に財政のたがが外れるなか、すべての増税への反対を唱える著者の見識と勇気はすばらしい。加えて、インフレ税にも目を光らせてくれれば、鬼に金棒だろう。

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