2020-08-14

米国トランプのロシア疑惑、2年経過も証拠なし…主要メディアの偽ニュース続々発覚

先月、米国でトランプ政権のロシア疑惑を捜査中のロバート・モラー特別検察官が、新たな疑惑報道を否定する異例の声明を出し、注目を集めた。

問題の報道は、米ニュースサイト「バズフィード」が複数の捜査関係者の話として1月17日に伝えた。モスクワでの「トランプタワー」建設事業計画をめぐり、トランプ米大統領が元顧問弁護士マイケル・コーエン氏に議会で偽証をするように指示したという。


ところがモラー氏は18日夜、「バズフィードの記述は正確ではない」との声明を発表した。その後、バズフィードの報道を裏付けるような事実は判明しておらず、このままではやはりフェイク(偽)ニュースだったということになりそうだ。

バズフィードは急成長してきたネットメディア。2017年1月、ロシア疑惑の発端となった秘密文書の全文を公開したことでも知られる。しかしその後、この文書がじつは米大統領選でトランプ氏と争った民主党のヒラリー・クリントン陣営などの委託で作成されていたことが判明。内容にも虚偽が多かった。

今回、モラー氏から否定された偽証報道は、ロシア疑惑に関するバズフィードの報道姿勢に、あらためて疑念を呼び起こしている。

バズフィードに限らない。16年の米大統領選挙でロシアが共和党のトランプ候補を勝たせるため、トランプ陣営と共謀し世論工作や選挙干渉を行ったとされるロシア疑惑(ロシアゲート)について、多くの米欧主流メディアが2年以上にわたり大々的に報じてきたが、共謀を示す証拠はいまだに見つかっていない。

それどころか、誤報と判明したお粗末な報道が少なくない。おもな偽ニュースを時系列で振り返ってみよう。


(1)不透明な調査受け売り


大統領選の結果をめぐり、ネット上の偽ニュースが有権者の判断に影響を及ぼしたという主張が広がり始めた16年11月24日、米紙ワシントン・ポストは、偽ニュースの背景にはロシアのプロパガンダ戦略があったとする記事を掲載した。

記事では、非営利団体「プロップオアノット」の報告書の内容を紹介。同団体はウェブサイトに掲載したリストで、選挙期間中にロシアの政治的宣伝を流し続けたというウェブサイトを200以上列挙した。

ところがワシントン・ポストはこの調査団体について「外交政策、軍事、技術畑出身の無党派研究者集団」とするだけで、個人名などは伏せたまま。リスト掲載の基準も不明瞭であるため、他のジャーナリストなどから「信憑性に欠ける情報を引用している」と批判された。

記事を書いたクレイグ・ティンバーグ記者は「個々のウェブサイトに関するプロップオアノットによる調査結果の正しさを保証するものではない」と断っているが、実体不明の団体の不透明な調査を裏付けも取らずに受け売りしたとすれば、無責任のそしりは免れないだろう。

(2)「送電網に侵入」の誤報


これもワシントン・ポストの報道。16年12月30日の記事で、米北東部バーモント州の電力会社を通じ、ロシアのハッカーが米国の送電網に侵入したと伝え、大きな反響を呼んだ。

しかしワシントン・ポストはその後、注記で記事の内容を徐々に修正。不正プログラムが見つかったのはパソコン内で、送電網にはつながっていなかった。最後には不正プログラムがロシアにも米送電網にも無関係だったとして、記事全体が誤りだったと認めた。

(3)記事を撤回、3人が辞職


17年6月22日、米CNNテレビは、トランプ米大統領の上級顧問アンソニー・スカラムーチ氏がロシア人投資家との関係について連邦議会の調査を受けていると同社ウェブサイトで報じた。

しかし、これは事実ではなかった。CNNは社内調査の末、記事を24日に撤回し、スカラムーチ氏に謝罪。記事を担当した記者と編集者の計3人が辞職した。CNNは、記事が「CNNの編集基準を満たさなかった」と撤回理由を説明。報道機関では原則、ニュースを報じるには少なくとも2つの情報源による裏付けを必要とするが、撤回した記事は単独の匿名消息筋を情報源に書かれたものだった。

(4)音響攻撃でなくコオロギ?


17年9月11日、米NBCテレビは、キューバの首都ハバナにある米大使館の米国人職員が脳損傷を受けたとされる問題で、人間の耳には聞こえないが身体に悪影響を及ぼす、高度な音響兵器による攻撃が原因とみられると伝えた。米当局はキューバではなくロシアなど第三国が実行したとの見方を強めているという。
 
しかし事実は違ったようだ。神経学者のチームが調べたところ、職員らは脳損傷を受けていなかった。さらに2人の生物学者の調査により、音響兵器ではなく、発情期を迎えたオスのコオロギの鳴き声と酷似していることが明らかになった。

(5)偽ニュースで株価急落


17年12月1日朝、米ABCテレビは、マイケル・フリン前国家安全保障担当補佐官に近い匿名の人物の話として、トランプ氏が大統領候補だったときに、フリン氏にロシアとの接触を命じたと報じた。ニュースは株式市場に衝撃を与え、ダウ工業株30種平均は報道直後の約30分で350ドルも下落した。

トランプ氏のフリン氏に対する指示が大統領選中であれば、民間人だったトランプ陣営が外交を行っていたとして、罪に問われる可能性があった。ところが実際には、指示は選挙に勝利した後だったと判明。違法でもなんでもない。ABCは12月3日、報道に「深刻な誤り」があったとして謝罪し、ニュースを伝えたブライアン・ロス記者は停職となった。

(6)メールの日付間違う


またCNNの誤報だ。17年12月8日のニュースで、内部告発サイト、ウィキリークスが一般公開前の情報をドナルド・トランプ・ジュニア氏(トランプ大統領の長男)にメールで送っていたと伝えたが、間違いであることが判明した。

同サイトは大統領選中、民主党陣営の内部メールを流出させ、打撃を与えた経緯がある。報道によれば、ウィキリークスの関係者が選挙期間中の2016年9月4日、民主党の盗まれた文書をトランプ陣営に対し特別にメールで提供していた。

ところが実際には、メールはその情報が一般に公開された後の9月14日に送付されたものだった。CNNは記事を訂正したが、誤報の原因については説明していない。

(7)ウィキリークスが告訴へ


これもウィキリークスに関連した報道。18年11月27日、英紙ガーディアンは、トランプ陣営の選対本部長を務めたポール・マナフォート被告が、16年春にウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジ氏と密会していたと報じた。

ルーク・ハーディング記者が書いた同紙の記事によると、マナフォート被告はトランプ陣営に加わった2016年3月ごろのほか、2013年と2015年にもロンドンのエクアドル大使館を訪れ、籠城中のアサンジ氏と会っていたという。

しかしその後、報道された事実を確認したメディアはなく、ビデオや写真などの証拠も見つかっていない。元ガーディアンのジャーナリスト、グレン・グリーンウォルド氏によれば、ガーディアンは質問への回答を一切拒んでいるという。

マナフォート被告、ウィキリークス、エクアドル大使館とも報道内容を全面否定。ウィキリークスはガーディアン紙を告訴するため、資金を集めるキャンペーンに乗り出した。誤報が確定したわけではないが、限りなくクロに近い状況だ。

これらの誤報を日本のマスコミは右から左に伝え、誤りが判明してもほとんど訂正しない。ロシア疑惑は事実の裏付けがないにもかかわらず、あたかも事実のような印象だけが膨らんでいく現状は、危険だといわざるをえない。

<参考文献>
Glenn Greenwald, “Beyond BuzzFeed:The 10 Worst, Most Embarrassing U.S. Media Failures on the Trump-Russia Story,” The Intercept
小川聡・東秀敏『トランプ ロシアゲートの虚実』文春新書

Business Journal 2019.02.27)

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