2020-07-08

トランプの米国第一主義=「反戦主義」批判は見当違い…米国建国の精神そのもの

米国のドナルド・トランプ新大統領が打ち出した「米国第一主義」が、内外のメディアから批判されている。トランプ氏の米国第一主義は中身が雑多で、そのなかには保護貿易など誤った政策も含まれるのは事実だ。しかし本来の米国第一主義とは、ある種の外交政策を指す。その部分まで一緒くたに叩くのは、適切といえない。

トランプ氏は大統領選中から、米国は国外で余計な軍事介入をしないという姿勢を強調している。日本や韓国には米軍駐留経費の全額負担を求め、応じなければ撤退も辞さない構えを示した。これにメディアは衝撃を受け、「過激」「無責任」などと非難する。


しかし余計な軍事介入をしないという考えは、最近の米国からは想像しにくいかもしれないが、過去には同国で有力な外交方針だった。それどころか、建国時にさかのぼる伝統的な外交政策なのだ。

初代大統領ジョージ・ワシントンは1796年の退任挨拶で、外交政策の理念をこう述べている。

「我が国にとって優れた外交方針とは、諸外国と通商関係を広げながら、できる限り政治的なつながりを持たないことである。(略)世界のどの国々とも永続的な同盟を結ばないようにするのが、我が国の真の政策である」

これは、非同盟主義と呼ばれる考えである。ワシントンは「米国第一主義」という言葉を使ってはいないが、意味するところは変わらない。米国自身の問題を第一に考え、他国の問題に巻き込まれかねない政治・軍事同盟を結ばないということだ。

ワシントンが当時意識したのは、独立を果たしたばかりの米国と欧州諸国との関係である。もし欧州諸国の一部と同盟を結べば、自国の平和と繁栄を犠牲にしてまで、欧州の野望や利益、世論や気まぐれに巻き込まれかねないと恐れた。


非同盟主義


そもそも英国の植民地だった米国が独立に踏み切ったのは、英国が他の欧州諸国との間で戦争に明け暮れ、その経費を税として取り立てられるのに嫌気が差したからである。せっかく独立を果たしたのに、また欧州のどこかの国と同盟を結べば、それは自分たちの運命を再び他国に委ねることになる。ワシントンをはじめとする建国の父たちは、賢明にもそう考えたのである。

ワシントンの考えに従い、米国は1800年、独立戦争に際してフランスと結んだ米仏同盟を終わらせる。これ以降、長きにわたり非同盟を貫いていく。

再び外国と恒久的な軍事同盟を結ぶのは、およそ150年後。第二次世界大戦後、北大西洋条約機構(NATO)を結成する北大西洋条約や、中南米諸国との集団安全保障を定めるリオ条約を相次いで締結したときである。その後、日本や韓国、フィリピンなどとも同盟を結び、多数の国が米国と同盟関係にある。

現代の私たちにはこれが当たり前に見えるかもしれない。しかし米国の外交政策の歴史から見れば、むしろ今のように多くの同盟を結ぶ状態が異常ともいえる。そうした背景を頭に入れておかないと、トランプ氏の同盟見直しの主張がひたすら突飛に見え、ヒステリックに叩くことになる。

「米国第一委員会」


米国史上、ワシントンの言葉が示す非同盟や不介入の外交方針から政府が逸脱し、自衛に不要な戦争に加わろうとすると、国内から厳しい批判が巻き起こった。スペインとの米西戦争(1898年)、第一次世界大戦への参戦(1917年)の際もそうだが、最も政府批判が高まったのは第二次世界大戦への参戦(1941年)前夜である。

当時批判の中心となった民間組織は、名前をずばり「米国第一委員会」という。エール大学法科大学院の学生らが1940年9月に設立。さまざまな政治的立場の人々が参加し、会員数は最盛期でおよそ80万人に達した。著名人にはウォルト・ディズニー、作家ウィリアム・サローヤン、シンクレア・ルイス、詩人E・E・カミングス、大西洋単独無着陸飛行で知られるチャールズ・リンドバーグらがいる。多くの企業人も参加した。

当時のフランクリン・ルーズベルト政権は、欧州で大戦が勃発した後、表面上は中立を保ちつつ、英国など連合国側に味方する姿勢を強めた。これを米国第一委員会は批判する。同政権の提案する連合国への武器貸与や、軍需品輸送の護衛などに反対。日本に対する経済圧力も批判した。

結果的には、米国第一委員会は政府の第二次大戦参戦を阻止することはできなかった。しかし、米国の反戦運動としてはそれまでで最大規模であり、米国第一主義がその原動力になったのは事実である。

トランプ氏が保護貿易、公共事業、移民排斥など不介入の外交政策とは無関係な政策まで「米国第一」でひとくくりにするせいで、米国第一主義の印象が悪化してしまったきらいはある。しかしだからといって、軍事同盟の見直しという十分検討に値する政策まで叩くのは、批判するメディア側の不勉強ないし歪んだ意図を示すものでしかない。

Business Journal 2017.03.04)*筈井利人名義で執筆

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