2018-10-10

行動経済学の矛盾

2017年のノーベル経済学賞(アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞)に米シカゴ大学のリチャード・セイラー教授が選ばれました。同教授は行動経済学の研究で有名です。しかし最近ブームになっているこの学問は、大きな矛盾を抱えます。

行動経済学の特徴は、授賞理由でも述べられているように、「人は完全に合理的には行動しない」と強調することです。しかしここには少なくとも2つの疑問があります。

第1に、行動経済学が「不合理」とみなす人の行動は、本当に不合理なのかという点です。

たとえばセイラー教授は、すぐに1万円をもらえるのと、2年後に2万円をもらうのとでは、たとえ2年後の方が得だったとしても、人はすぐ1万円をもらうことを選びやすいといいます。しかしこれは不合理といえるでしょうか。

今後2年間の金利水準など諸条件を仮定し、今の1万円より2年後の2万円のほうが計算上は実質金額が大きいとしても、それはあくまで机上の試算にすぎません。現実に選択する時点では、2年後のほうが「得」かどうかは誰にもわかりません。だとすれば、確実にもらえる今の1万円を選んでも不合理とはいえません。

第2に、人の「不合理」な行動を正すには、政府が働きかければよいという主張にしばしば結びつく点です。

セイラー教授は著書『行動経済学の逆襲』で、税の滞納、駐車違反、臓器提供などにまつわる行政上の問題を解決するため、政府にさまざまな知恵を授けます。しかしそこには、そもそも政府が定める税制や道路計画は合理的か、政府が臓器提供の権限を握ることは合理的かという視点がまったくありません。

当たり前のことですが、政府を構成する政治家や官僚は人です。もし行動経済学が主張するように人の行動が不合理ならば、政府が不合理な政策を決め、実行する恐れは小さくないはずです。

ところが行動経済学者はその肝心の部分は問題にせず、不合理かもしれない政策をうまく実行する知恵をあれこれ絞るのです。大きな矛盾といわざるをえません。(2017/10/10

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