2018-08-06

平和の夢、自由貿易の夢

平和への祈りの季節がやってきました。戦争の犠牲者に祈りを捧げ、平和への思いを新たにすることは大切です。しかし、それだけで平和を守ることができないのも事実です。

一部の人々は、平和を守るには軍事力が必要だと言います。国家間の軍事力が均衡することで、互いに相手を攻めにくくなり、そこに平和が生まれるというわけです。

この考えの落とし穴は、軍事力の均衡に客観的な基準はなく、結局はそれぞれの国の主観で判断するしかない点です。かりにA国、B国という2つの国が同じ数の戦車、戦艦、戦闘機を持っていたとしても、人口や経済力、地理的条件などを含めた国力は同じではありえません。

敵を恐れる心理や駆け引きの意図から、どちらの国も自分のほうが劣勢だと主張し、軍拡競争に陥るでしょう。そこから実際の戦争まではわずかな距離です。事実、たとえば第一次世界大戦はそのようにして起こりました。

軍事力に頼るもう一つの問題点は、経済への悪影響です。軍事に人材や資金を投入すればするほど、国民の生活に必要な製品・サービスに回せる人材や資金は少なくなり、その結果、国民は貧しさを強いられます。安全保障の目的は国民の生活を守ることであるはずなのに、本末転倒です。

どうすればよいのでしょうか。かつてその処方箋は明らかでした。自由貿易です。

平和を支えるのが自由貿易であることは、昔は世界の共通認識でした。たとえば1901年、赤十字社創立者のアンリ・デュナンとともに第1回ノーベル平和賞を受賞したフランスのフレデリック・パシーは、自由貿易を熱心に支持する経済学者でした。

そのパシーをはじめ、自由貿易を支持する人々に大きな影響を与えたのは、19世紀英国の政治家で実業家のリチャード・コブデンです。穀物生産を助成し輸入に制限を加える穀物法に対する反対運動を繰り広げ、廃止に追い込んだことで知られます。

自由貿易を行う国が増えると、平和の維持が大切になり、軍事力の使用が減る——。これがコブデンの洞察であり、信念でした。その正しさは、自由貿易が栄えた19世紀後半、世界で大きな戦争がほとんどなかったことで証明されています。

コブデンは1846年の演説で、その信念を語っています。同国のミュージシャン、ジョン・レノンの反戦歌「イマジン」を連想させます。

「自由貿易の成功が人類にもたらす利得の中で、物質的な利益は一番小さなものにすぎません。自由貿易の法則は道徳の世界において、あたかも宇宙における重力の法則のように働きます。人々を親しくさせ、人種・信仰・言語の違いがもたらす敵意を退け、永遠の平和という絆によって結びつけます」

「夢かもしれませんが、遠い未来、自由貿易の力は世界を変え、政府の仕組みは今とまったく違うものになっているかもしれません。強大な帝国も大規模な軍隊もいらなくなるでしょう。人類が一つの家族になり、労働の果実を同胞と自由に交換できるからです。国家は地方自治体のようなものになるでしょう」

コブデンの理想は現代でもまだかろうじて生きており、自由貿易に正面切って反対する政府はごくわずかです。しかし最近は、自由貿易の名の下に、実際には農業への助成など保護主義を推し進めようとする欺瞞が目立ちます。平和を守るには、真の自由貿易を守らなければなりません。(2017/08/06

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