2016-11-23

井出留美『賞味期限のウソ』


食品ロスは不合理か

19世紀フランスの経済学者バスティアは、悪い経済学者は「見えるもの」についてしか考えないが、良い経済学者は「見えないもの」についても考えると強調した。この違いは経済学者だけでなく、経済ジャーナリストにもあてはまる。

本書は残念ながら、「見えるもの」についてしか考えていない。農林水産省の調査によれば、日本の食品ロス量は632万トン(2013年度)。著者は、これは世界の食料援助量の約2倍に達し、「明らかに異常な数字」と警鐘を鳴らす。

しかし日本の食料廃棄量は外国と比べ突出して高くはないとの指摘もあるし、そもそも信頼できる統計が少ない。一歩譲って、かりに日本の食品ロスが世界有数の多さだとしても、それがすなわち「大きな不合理」だということはできない。

スーパーやコンビニで食品が売れ残る一因は、欠品が出ないよう多めに作るからだ。著者は「商品がいつも棚にぎゅうぎゅうに並んでいる必要はあるのでしょうか」と消費者に反省を促す。だが店に商品がなければ、消費者は時間を無駄にする。

消費者は多くの場合、生産者やそれを助ける人々だから、商品探しに時間を浪費すれば、その分生産が減る。生産が減れば、飢餓や貧困はむしろ悪化する。政府が食品ロスをなくそうと税金を使い、規制を強めれば、それも生産性を下げる。

食品ロスは、見切り品の安売りなど市場原理を利用して減らせる。だがそれ以上無理に減らそうとするのはよくない。無理な食品ロス減らしは、目に見えない時間ロスと人々の不幸をもたらすだけだからである。

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