2016-09-28

ソール『帳簿の世界史』

帳簿の世界史 (文春e-book)
帳簿の世界史 (文春e-book)

政治は会計を憎む

民間には帳簿をごまかす企業も一部あるものの、大多数はきちんとつける。一方、政府はまともな帳簿をつけない。企業経営に経済合理性が欠かせないのに対し、政治は経済合理性を無視・敵視するからだ。本書を読むとそれがよくわかる。

近代資本主義に欠かせない複式簿記を発明したのは、中世イタリアの商人である。古代ギリシャ人もローマ人もできなかったことが、なぜ彼らにできたのか。仲間で資金を出し合って行う貿易で各人の持ち分や利益を計算するためだった。

メディチ家の隆盛を築いたコジモは欠かさず帳簿をつけた。ところが息子たちには会計の教育を徹底しなかった。マキャベリが仕えた孫ロレンツォは帳簿に無知で、鉱山の利権を保護してもらおうと貴族に莫大な融資を行い、踏み倒される。

フランスのルイ16世は財政難に苦しみ、スイス出身の銀行家ネッケルを財務長官に任命する。ネッケルが初めて国の財政状況を公表すると、政敵は「国家の秘密の暴露は本質的に反逆的行為」と罵倒した。8年後、革命で王室は滅びる。

ヒトラーも会計責任を果たす気はなかった。ドイツ鉄道総裁は、国鉄は営利目的の組織ではなく政治的目的の達成度によって成果を計測すべきだとの理屈で、原価計算を廃止する。理性が軽視される時代には、会計原則は尊重されない。

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