2016-06-26

加藤周一『夕陽妄語1』



普遍の価値

西洋由来の人権思想は日本になじまないとか、一神教は攻撃的で多神教は平和的だとか、ナショナリズムに淫した言論が幅を利かす。しかし著者は日本文化を深く愛するとともに、国や文化を超えた普遍の価値を重んじる。

<抜粋>
歴史の歪曲と戦うために有効な武器は、「イデオロギー」に非ず、倫理的な善悪に非ず、政治的な立場に非ず、つまるところ歴史の事実である。(p.47)

一世代の経験には、他の世代に伝え難い要素があり、一国民の経験には、その国民にしかわからぬ一面がある。そんなことは、はじめから明らかで、今さら強調するまでもない。その上で、しかも、個人間に、あるいは集団相互に、敢えて話を通じさせる工夫こそが、文化ではなかろうか。(p.51)

かつて天賦人権の思想を生みだした文化もあり、生みださなかった文化もある。私は長次郎を限りなく愛するが、それだけで満足することはできない。どの文化が生み出したとしても、また基本的人権に執着するのである。(p.148)

多神教がこの神もあの神もよろしいというのはその体系内部での話である。別の民族の別の多神教の体系に対しても寛大であるとはかぎらないだろう。(p.333)

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