2016-04-15
『恐怖による支配』(2)
恐怖を煽る政府の嘘
コナー・ボヤック『恐怖による支配』
(Connor Boyack, Feardom: How Politicians Exploit Your Emotions and What You Can Do to Stop Them)
民主主義のすばらしいところは、理性的な討議(最近流行の言葉でいえば「熟議」)を通じて政治決定を行うことだとよくいわれる。しかし本書の序文で歴史家トーマス・ウッズがいうとおり、政府が冷静な討議を望むことなどありえない。政府は感情を養分として栄えるからである。その感情とは、恐怖である。
著者ボヤックによれば、米国でテロリストに殺害される確率は年間2000万人に1人という。これに対し、交通事故による死亡は1万9000人に1人、浴槽での溺死は80万人に1人、ビル火災は9万9000人に1人、落雷は550万人に1人。つまり、雷に打たれる確率はテロで死ぬより4倍も大きい。
ところが米政府は落雷防止に何十億ドルもの予算を費やしたりはしない。一方で、落雷よりリスクの小さいテロ対策には莫大な税金を投じる。政府が煽るテロの恐怖によって、国民がテロ対策を支持するからである。不合理な政策でも、恐怖という感情に訴えることによって可能になる。
恐怖にはこのような効能があるから、政府はそれを最大限に活用しようとする。恐怖による支配である。その際しばしば、自分自身で、あるいは親しいメディアを通じて、偽りの情報を流し、輿論を操作する。
著者は、国民が政府の嘘に騙されないためには、まず権力者に対する健全な懐疑心を養ったうえで、情報源を多様化し、信頼できる情報を選ぶことが必要だと忠告する。権力の狡猾な本性に対する洞察を欠いた「熟議」のすすめなどより、はるかに役立つアドバイスといえる。
<抜粋>
恐怖による政府の支配を打破する第1段階。権力者に対する健全な懐疑心を養うこと。つねに警戒を要するのは、権力を委ねられた者はそれを濫用する恐れがあることだ。
First, a person must develop a healthy skepticism of those in power—a constant awareness that those who have been entrusted with authority have the potential to abuse it.
恐怖による政府の支配を打破する第2段階は、信頼。政府当局やマスコミに対する懐疑心を養うと、メディアの構造がより客観的に見えるようになり、信頼に値する情報とそうでない情報を賢明に見分けることができるようになる。
Skepticism towards “official” or popular sources of information allows us to observe the media landscape more objectively and then judiciously determine who is worthy of our trust. Trust—the second step in treating the disease—is important, but it should be cautiously extended only to those who have proven themselves worthy of it.
恐怖による政府の支配を打破する第3段階。多くの情報を集め、情報源を多様化すること。…偽りのニュースは蔓延している。情報源を広げれば、政治家や評論家に騙される可能性を小さくできる。
The third step in treating the disease of fear is to consume a large amount of information—and to diversify our sources...Propaganda is pervasive; expanding our sources of information reduces the likelihood that politicians and pundits will be able to deceive us.
恐怖による政府の支配を打破する第4段階。真実を知ったら、それを広めること。信頼できる情報を入手することはそれだけで有益だが、それを知らない人たちに広く伝えてあげれば、もっと役に立つ。
Fourth, truth-seekers must become truth-tellers. Obtaining reliable information may benefit us individually, but it becomes more effective when spread widely to others who have not yet encountered it.
恐怖支配を打破する最後の第5段階。「すべて人にせられんと思うことは人にもまたそのごとくせよ」という聖書の黄金律を、個人としても集団としても実践すること。政府がある人々を悪魔にでっち上げようとしても、愛を忘れてはいけない。
Finally, we should internalize and institutionalize the Golden Rule, treating others as we would want them to treat us...While others work to demonize and dehumanize them, we should let love become the basis of our feelings and thoughts towards others—even, and perhaps especially, those who are being painted with broad brushes by a government looking to implement policies that will harm them.
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