2015-01-08

米メディアの腐敗

北朝鮮を題材にしたコメディ映画にからみ制作元の米ソニー・ピクチャーズエンタテインメントがハッカー攻撃を受けた問題で、オバマ米大統領は先月19日の記者会見で「攻撃は北朝鮮によるもの」という公式見解を示し、その後同国への経済制裁を強化する方針を決めた。政府見解には専門家から疑問の声も少なくないにもかかわらず、政府の強硬姿勢を世論は後押ししている。その背景には、政府見解を無批判に報じる米大手メディアの姿勢がある。

エドワード・スノーデンの内部告発に協力したことで知られるジャーナリスト、グレン・グリーンウォルドが、こうしたメディアの姿勢を以下のように厳しく批判する

米政府による北朝鮮叩きは事実上、オバマ大統領の会見の2日前に始まっていた。ニューヨーク・タイムズ紙が12月17日付紙面で匿名の「政府高官」を情報源として、北朝鮮がハッカー攻撃を命じたという国民の怒りを煽る主張を広めたのである。ワシントン・ポスト氏も匿名の高官を引用して同様の報道をおこなった。

北朝鮮犯人説には多くの専門家が疑義を表明していた。しかしジャーナリストの多くはひたすら政府見解をおうむ返しに繰り返した。そして厳しい報復を議論し、しばしば報復を求めさえした。報道の大きな方向を決めたのは、米主流メディアの相も変わらぬ大方針である。「政府の言い分は真実として扱え」

ニューヨーク・タイムズ紙のパブリック・エディター、マーガレット・サリヴァンはハッカー攻撃に関する同紙の元の記事をたしなめ、「この記事には懐疑心がほとんどない」と書いた。サリヴァンはさらに、政府高官に匿名を認めたことで、匿名報道に関する同紙自身の内規を破ったとつけ加えた。この内規は、イラクに大量破壊兵器があるという匿名の政府高官による嘘の情報を真実として報道した失敗への反省から設けられたものである。

北朝鮮はソニー・ピクチャーズ攻撃に関与したかもしれないが、実証されたというにはほど遠い。ところが米メディアの多くは、まるで事実のように扱っている。

大量破壊兵器の偽情報にもとづくイラク開戦から11年目、ベトナム戦争の口実とされたトンキン湾事件から50年目の現在、米国民なら誰でも政府がしょっちゅう嘘をつくことを知っている。ジャーナリストなら誰でも、証拠もなしに政府の主張を真実として報じることは、メディアが政府の情宣活動の道具になりさがる早道だとよくわかっている。そう述べた後、グリーンウォルドは次のように手厳しく書く。

米国のジャーナリストがそのような行為に手を染めるのは、その結果どうなるかを知らないからではない。逆に、知っているからこそやるのだ。それこそ彼らがやりたくてたまらないことなのだ。大手メディアのジャーナリズムが腐敗するのは証拠もない政府見解を無批判に広めるからだと一般国民が知っているのであれば、ジャーナリストだって知っている。ジャーナリストにそんなことはやめろというのは、買いかぶりである。彼らは権力の監視という見せかけの使命にふさわしく振る舞おうとしてなどいない。権力の監視は看板にすぎない。ほんとうにやりたいとも思っていないし、その役割を果たしてもいない。

「戦争の最初の犠牲者は真実である」という言葉がある。逆に言えば、公式見解を疑い、真実を追求する報道の精神が衰えたとき、新たな戦争が近づく。グリーンウォルドの怒りに満ちた文章は、そう訴えかけているようだ。

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